2024年12月3日(火)

Wedge REPORT

2019年1月21日

 企業にパワーハラスメントの防止を義務づける「労働施策総合推進法改正法案」が、2019年通常国会に提出される予定だ。パワハラに対する問題認識は高まっているが、なぜパワハラは減らないのだろうか? 背景には、日本独特の考え方がある。

(BAONA/GETTYIMAGES)

 以前、「5人潰(つぶ)して出世した」と豪語する大企業の幹部に会ったことがある。こうした人に共通するのは、「激烈な競争社会に勝ち抜くには〝過剰労働が必要〟」という古風な成功体験に基づいた信念にも近い考え方だ。これが「電通事件」のような、人を死に追い込むまで働かせるという不幸な事件を起こしているのではなかろうか。

 こうしたパワハラ上司は、悪気はなく、むしろ本気で部下のため、会社のために必要なことを言っているという認識しかない場合が多い。そのため、部下にパワハラだと指摘されると「心外」だと言い、部下が自殺すると「意外」だと言う。

 もう一つは「メンバーシップ型」と呼ばれる、日本の雇用形態だ。欧米では「ジョブ型」が一般的で、本人のスキルを評価して適所にあてはめるという雇用形態だから、評価基準も明確だ。一方でメンバーシップ型は、職務範囲、労働時間、勤務場所も曖昧になり、採用形態もいわゆる新卒一括採用である。当然「会社」という一家的組織に新人を迎え入れるという形になるので、「スキル」ではなく「人間力」や「社風に合う」等の曖昧な評価基準に基づいている。そのため「部下にしてもいい人」「使いやすい人」が好まれ、一家なのだから、当然滅私奉公が求められ、結果として上下関係の縛りが暗黙のうちに存在し、パワハラを生む土壌となるのである。

 パワハラにより社員がメンタル不調に陥れば、社員やその家族にとってはもちろん、人材の機能低下は組織にとっても大きなマイナスとなる。

 同時に、イノベーションの芽をんでしまうことにもなる。パワハラの撲滅に本気で取り組んでいる企業は、イノベーションを起こす必要性に迫られていることが多い。

 パワハラ上司のなかでも、部下を潰し、「自分が絶対正しい」と視野になっている「クラッシャー上司」と呼ばれる人は、新しい商品やビジネスモデルの種、粗削りなシーズに気づくことができない。

 シーズを持っているのは若者であることが多く、上司はそれに気づき、そのシーズをどのように製品やサービスに落とし込んでいけばいいか、共に考えることで、イノベーションの突破口が開けていくのだ。どんなに仕事がデキる上司であっても、その人がクラッシャー的である限り、彼に育てられた部下は、彼のコピーでしかない。コピーのコピーはさらに劣化していく。短期的な利益は上げたとしても中期的には、その組織の人材は劣化する一方である。

 クラッシャー上司を生み出さないためには、業績評価において部下育成に関する比重を重くすることで、管理職の意識を変えることからはじめると良い。プレーヤーとして業績を出すことができる人間は、評価基準が変わればそれに順応するのも早いからだ。


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