2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2019年1月21日

パワハラの分岐点
共感的関係の有無

 「パワハラ」の分岐点は、「共感的関係」の有無ということになる。例えば、女子レスリングの伊調馨氏が、指導者である栄和人氏をパワハラとして訴えたのは、「共感的関係」が失われたからだと想像される。五輪4連覇に向けて共感的な関係を保つことができていたときには、「自分のために指導してくれている」と思えるので、少々厳しい指導にも耐えることができる。しかし、その関係性がいったん崩れてしまうと、厳しい指導は被害意識をしてパワハラに変わってしまう。

 共感的関係を構築するには、上司と部下との間でコミュニケーションをとることが欠かせない。組織として目指すべきゴールを確認して、そのためにはどのような方法論があるのか、じっくり話し合う。ここで上司は、過去の体験を部下に押し付けることは禁物だ。若い人にこそ、新しいことを起こす「シーズ」があると考えなければならない。

(出所)厚生労働省「労災補償状況」を基にウェッジ作成 写真を拡大

 現代の若者たちの大半は、会社に滅私奉公して、将来「社長」になることなど目指していない。「会社で自分自身が成長できるかどうか」に眼目を置いている。

 それでは実際に、〝現代っ子〟の部下とどのように接していけばよいのか。それにはまず「承認欲求」を満たすことが有効だ。「インスタ映え」現象にみられるように、現在の若者たちが求めているのは、「いいね!」と言われたい、つまり「承認されたい欲求」であり、「上司のおごりで新橋で飲むこと」は求めていない。

 アメリカの心理学者アブラハム・マズローの欲求5段階論では、下位から上位に人間欲求が上がっていくとしている。①生理的欲求、②安全の欲求、③社会的、所属の欲求、④承認(尊重)の欲求、⑤自己実現の欲求、である。

 上司のおごりで飲むというのは、最も下位の生存欲求だ。かつての若者はお金がなくて飲めなかったため、一杯飲み屋でおごってもらうととても嬉しかった。しかし今は280円の焼き鳥で総額1000円で飲める時代なのだ。だから彼らは上司に教育されながら飲むことに価値を見いだしていない。社会保障のインフラが整い、デフレの現代において若者たちが求めるのは、より上位の「承認欲求」であることに気づかなければならない。

 「承認欲求」を満たすための方法のひとつが「裁量」を与えることだ。ただし、裁量といっても、「お前に任せたから、結果責任はとれよ」というような「放任」とは違い、上司による適切で緻密な「プロセス管理」が欠かせない。いつも後ろに寄り添ってくれている感覚を持たせて安心させ、の遅れが出れば、責めるのではなく、どうやって帳尻を合わせたらいいかを一緒に考えるという姿勢だ。


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