日本人は“巻き込まれ”に要注意
下記の図は、21世紀になって邦人が死亡、もしくは負傷した主なテロ事件である。これをみると、断続的に邦人はテロの被害に遭っていることがわかる。
▼日本人の被害事例
2001年9月 米国同時多発テロ事件(邦人 24名死亡)
2002年10月 バリ島爆破テロ事件(邦人2名死亡、13名負傷)
2004年10月 イラク日本人青年殺人事件(邦人1名死亡)※
2005年7月 ロンドン地下鉄同時多発テロ事件(邦人1名負傷)
2005年10月 バリ島同時爆破テロ事件(邦人1名死亡)
2008年11月 ムンバイ同時多発テロ事件(邦人1名死亡、1名負傷)
2013年1月 アルジェリア・イナメナス襲撃事件(邦人10名死亡)
2015年1月 シリア日本人男性殺害事件(邦人2名死亡)※
2015年3月 チュニスバルドー博物館襲撃テロ事件(邦人3名死亡、3名負傷)
2016年3月 ブリュッセル連続テロ事件(邦人2名負傷)
2016年7月 ダッカ レストラン襲撃テロ事件(邦人7名死亡、1名負傷)
※筆者作成
しかし、テロリズム研究に従事する者として、ここで大事なポイントを2つお伝えしたい。
1つは、テロの標的である。今回の事件のように、アルカイダ系のイスラム過激組織は欧米諸国やイスラエル、特に米国を強く狙う意思を持っている。よって、中東やアフリカでテロを行う場合、その標的は必然的に、現地にある欧米系の大使館や企業、欧米人が多く宿泊する高級ホテル、観光施設や国際空港などとなる。アルシャバーブも、ソマリアでは首都モガデシュにある外国人が多く宿泊する高級ホテルや政府庁舎を狙うことが多く、今回の事件のように、ケニアでも外国人がいると想定される場所をあえて選んでいる。
もう1つは、邦人に対するリスクである。先ほどの話と関連するが、アルカイダ系のイスラム過激組織の敵は、主として欧米やイスラエルである。よって、邦人や日本権益というものは、狙われるリスクはあるにしても、欧米諸国やイスラエルほど狙われる頻度や可能性は高くない。この種のイスラム過激組織にとって、日本は標的としての優先度は決して高くないといえる。図にあるような事件でも、実行犯たちは日本人を狙うことを目的にテロを実行したわけではなく、事件を起こしたらたまたま日本人が犠牲となったというのが実態だろう。
要は、図にあるのは“巻き込まれた”テロ事件であり、脅威を過度に強調することは控えなければならず、冷静に客観的に分析し、“賢く備える”ことが重要だ。(なお、※で示した事件は、極めて危険な地域に自ら足を運んで殺害されてしまった事件であり、別途議論が必要だと考える)