個人が取るべきテロ対策とは
テロを100%避けることはできないが、そのリスクを下げることはできる。以下に、個人でもできる防止策を列挙する。
・アルカイダ系のテロ組織の場合は、欧米やイスラエルの大使館、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)などには行かない、近づかない。また、外国人が集まる鉄道主要駅や観光施設、国際空港などにはできるだけ長居しない。
・イスラム教のラマダン(断食月)やハッジ(巡礼)など宗教行事、また自分が滞在する国の大統領選挙や地方議会選挙など、テロのタイミングとして狙われやすい時期を事前に把握し、その期間には必要以上の過度な外出は控える。
・そういった時期における外出では、逃げやすい服装にしたり、外の音を遮断しないためにイヤホンなどを控える。
・仮に爆破音や銃撃音を聞いたら、まず姿勢を低くして伏せる。そして速やかに逃げられるなら逃げ、もしくは頑丈な建物の物陰に隠れる。
・身を守るためのテロ避難訓練を事前に受講しておく。
ラマダンとはイスラム教徒が行わなければならない五行のひとつで、日の出から日没までの間一切の食事を断つ。その期間はイスラム教徒にとって「聖なる月」であり、宗教的な信仰心も非常に高まる。日本人7人が犠牲となったダッカ人質テロ事件も、ちょうどラマダン明けに発生した。
過去の統計を見るかぎり、ラマダンの時期に特別テロが増えているわけではないが、近年のISのように、ラマダンという行事を利用してテロを呼び掛け、それに応える形で世界中でテロが拡散的に発生することは今まで見られなかった現象だ。ISやアルカイダが掲げる暴力的な過激思想は依然として残っているため、引き続きラマダンの期間には注意が必要だ。
企業が取るべきテロ対策とは
2月中旬に、ナイジェリアでは大統領選挙が実施されるが、同国北東部を拠点とするイスラム過激組織ボコ・ハラムやIS系の組織は、同選挙を狙ったテロを既に呼び掛けている。駐在員や出張者の安全を守るべく、以下に、企業が取るべき対策を列挙する。
・日本外務省の情報だけでなく、米国や英国、オーストラリアなどの外務省が出すアラート情報やトラベルウォーニングもチェックし、重要な情報があれば駐在員や出張者へすぐに伝える。また、それを社内で制度化する。
・テロ事件が大規模なものであると、その被害だけでなく、交通渋滞や公共交通機関などインフラの麻痺、国際空港の離発着中止、もしくはデモや暴動に発展することもある。そのような場合にはできるだけ早期に駐在員とその帯同家族を帰国、もしくは安全な近隣国に移動させることを徹底する。
・テロによって反政府運動や暴動が激化し、社会機能が麻痺することもあるので、現地事務所や駐在員の自宅に、水や食糧を備蓄しておく。
・情報収集を強化する。例えば以下のようなサイトを見ると、日本のメディアでは取り上げられない貴重な情報が入手できる。
▼イスラム過激派の動向を監視する情報サイト「サイトインテリジェンス(SITE)」https://news.siteintelgroup.com/
▼東南アジアのテロ情勢を専門とする「政治的暴力・テロリズム研究国際センター(ICPVTR)」
https://www.rsis.edu.sg/research/icpvtr/
▼同じく東南アジアのテロ情勢を専門とする「INSTITUTE FOR POLICY ANALYSIS OF CONFLICT(IPAC)」
http://www.understandingconflict.org/en.html
▼各地域の治安情勢を分析する「国際危機グループ(ICG)」
https://www.crisisgroup.org/
▼世界各地の新聞で取り上げられたニュースを網羅的に収集しているサイト「NEWSNOW」
https://www.newsnow.co.uk/h/
最近もフィリピン南部でIS系によるテロが起きたが、「SITE」などを見ると、すぐに犯行声明が出ている。このような犯行声明は、日本のニュース報道でも引用されており、報道より早く情報を入手できることもある。
また、フィリピン南部のテロ情勢は近年悪化しているため、そこに利害関係を持つ日系企業は注意が必要だ。特に、「IPAC」のトップであるシドニー・ジョーンズ氏は東南アジアのテロ情勢の専門家として非常に名高い。筆者も3年前にインドの国際会議でジョーンズ氏と数日過ごし意見交換をしたが、IPACのレポートは現地の情報を多く含んでおり、非常に貴重だ。
ここに挙げた対策は一部に過ぎない。危機管理には費用が掛かるため、日系企業のなかには意識が行き届いていないところもある。欧米企業では軍や警察のOBが企業の危機管理部門の幹部を務めることも多く、危機管理は「利益を守るための必要コスト」と捉えているところが多い。日本は国内の治安が良いことからどうしても平和ボケになってしまいがちだが、今後、日系企業の間でも、危機管理を必要コストと捉える意識が高まることを願う。
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