2024年12月22日(日)

使えない上司・使えない部下

2019年2月25日

(bigjom/gettyimages)

 前々回前回、今回と3回連続で元プロ野球選手の柳田真宏さん(71)に取材を試みた。柳田さんは1948年、熊本県生まれ。九州学院高校卒業後、ドラフト2位で西鉄ライオンズに入団。1968年に巨人軍にトレードで移籍。「黄金時代」と言われるV9(1965年~1973年まで9年連続、日本1)では、代打の切り札として大活躍。その後、外野手のレギュラーとなり、1977年には打率3割4分、本塁打21本、67打点で、「巨人軍史上最強の5番打者」と呼ばれる。1982年に引退し、1983年に演歌歌手としてデビュー。現在は、八王子市内でスナック『まむし36』を経営する一方、講演や少年野球教室の講師などを務める。

<成績>1079試合/2302打数649安打/99本塁打/344打点/48盗塁/313三振/打率.282

ボールを離す瞬間、指の動きが止まって見える

 シーズン終了時点で3割4分を打ったペナント(1977年)の特に調子のよかった頃は、月間の打率が4割を超えている時期がありました。バッターボックスに入ると、投手が投げるボールしか見えなかった。打席に立つたびに、これは何なんだろうな、と思っていました。今、思いおこしても不思議な現象なんですよ。

 集中力を上げるために、暗い部屋にローソクの火をつけて、それを見てバットスイングをよくしていました。これは効果があり、プラスになりました。この練習をしたことも、不思議な現象をつくった理由だと思います。投手にもくせがありますが、僕はこの頃は投げる前に球種がわけるときがあったんです。

 当時も、150キロを超える球を投げる鈴木(中日ドラゴンズ)などがいましたが、僕は調子がよいときは速いとは思わなかった。スピード感が全然ない。バットで球を打つときに縫い目が見えるときもありました。ところが、打てなくなると、スピードが遅い投手の投げる球も速いなあと思うから不思議ですよね。調子が悪いと、とにかく、速く見える。

 バッティングのキモは何か、それは間(ま)です。間とは、球を見る時間のこと。僕も打つときに、足を上げていました。僕は、王さんみたいに大きくは上げませんが。王さんに「どのタイミングで足を上げますか」と聞いたことがあります。王さんは「投手が投げたら、自分も足を上げる」と言われました。こんなに早く上げるから、間がすごく長い。

 球団職員がバッターに球種を教える? あぁ…、僕らの時代には、一部のチームがしていたみたいね。よくないことなんですけどね…。試合中、バックスクリーンのところに、そのチームの職員が数人いて、双眼鏡や望遠レンズ付きのカメラで、ジャイアンツの捕手のサインを見ているわけ。捕手がマウンド上の投手に、1本、2本と指を出したり、くるくると動かしたりして、サインを送るでしょう。

柳田真宏さん

 職員たちがあのサインをバックスクリーンからじっと見ていて、バッターボックスにいる味方のチームの選手にシグナルを送るわけ。「次の球種は、カーブだ」というように…。つまり、バッターは、どんな球が来るかをわかったうえで、打席に立っているんです。

 あの時代から、こういうことをするチームがしだいに増えたんじゃないかな。僕がパ・リーグのチーム(阪急ブレーブス)に移ったときも、あるチームはそれをしているようでした。実際、職員がバッターに送るサインのほとんどは、当たっていましたよ。捕手のサインが完全に見抜かれていたんでしょうね。

 当時のジャイアンツ? そんなことをしなくとも、王さんや長嶋さんは確実に打ちますから。本来、どういう球が来るかわからないもんなんです、それが、野球ですよ。王さんは現役の頃、打撃練習でバッティングピッチャーに「どんなボールでも、投げてくれ」と話していました。

 王さんは、僕らによく話されていましたよ。「試合で、相手の投手はカーブか、シュートか、フォークか、何を投げてくるか、わからない。だったら、バッティング練習もそうしなきゃダメ。試合と全く同じ練習をしなきゃ…」。

 捕手のささやき戦術もあるんです。バッターボックスに立つと、言ってくる。「今度は、カーブかな。ストーレートかな…」って。あの頃、特にうるさかったのが、広島(東洋カープ)の達川(光男)。とにかく、うるさい…。だから、僕は時々、バッターボックスを外して言いましたよ。「うるせぇ」って…(苦笑)。それでも、言い続ける。困ったよね。

 日本シリーズで対戦した南海(ホークス)の捕手の野村(克也)さんもささやくよね。「変化球、待っとんのかな…」とあの口調でぶつぶつと話す。こちらは、集中できなくなる…(笑)。王さんは、野村さんが「銀座のあの店に、ええママが入ったみたいやな」とささやくと、「試合中は、そういう話はやめましょうよ」といちいち真剣に答えていたようです。

 野村さんは長嶋さんにもささやいていたそうだけど、通用しなかったようですよ。長嶋さんは、質問とは全く違うことを返してくるみたい…。野村さんは、「長嶋だけには通用しない」って。長島さんは、自分の考えたことしか言わないところがあるから、会話がなかなか成立しないのかもしれませんね。笑っちゃいますよね…(笑)。ちょっと僕らの感覚とは違うんですよ。あの方は…。当時、新聞やテレビが、長嶋さんのことを「宇宙人」と言っていましたけど、まあ、そうかもなあという気がしなくもないですね。


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