2024年4月20日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2019年3月10日

繰り返される集団的狂気のデジャブ

 ある手記には当時のセルビア人武装勢力の組織的行為が記されていた。武装集団は地域一帯を占領して支配体制を固めるとイスラム系住民の家では黒い色の布を目印として掲げるよう指示した。またイスラム系住民は目印の腕章を着けることが強制された。

 収容所で腕に囚人番号を入れ墨することも含めて、ナチスドイツが支配地域で実施したユダヤ人対策と同じである。まさに“夜と霧”で描き出された狂気の支配する世界である。

大量虐殺の歴史はなぜ繰り返されるのか

 自分たちの絶対的優越性と正義を狂信する人間集団はどこまで残虐になれるのだろうか。振り返ると人類の歴史は大虐殺(genocide)の歴史であることに暗澹となる。ナチスドイツによるホローコースト、スターリンによる粛清、ポルポトによるキリングフィールドなどなど。そして今現在も世界各地で“進行中”である。

 地球上の土地、食料、天然資源は有限である。“生存圏(レーベンス・ラウム)確保”という動物としての生存本能が作用して、“集団の自衛本能”として“異人排除”(=大量虐殺)を繰り返すのだろうか。

 近い将来地球上の人口は100億人を超える。大量虐殺は益々激化するのだろうか。

フランス人兵士の献身と犠牲

 セルビア人武装勢力に包囲された当時のサラエボの市民生活がビデオ映像で放映されていた。占領した市街地の高層ビルから常時狙撃手が一般市民を狙っている。大きな通りを横断する時は、国連の装甲車の陰に隠れて移動している。

 小さな通りでは人々は走って横断している。老人が渡りきる寸前に足を撃たれ、数人の男が飛び出して物陰に運び込む場面もあった。

 国連の装甲車の陰に10人くらいの市民が隠れて移動しているときに、誰かを助けようと装甲車から数メートル飛び出した兵士が狙撃された。若いフランス兵は即死であった。

 兵士の家族は突然の悲報をどのように受け止めたのだろうか。数年前にアフリカで国連平和維持活動に従事中に戦死したドイツ連邦軍兵士の母親の言葉を思い出した。

 「息子は勇敢に使命を果たしました。彼の犠牲が世界平和に役立つものと信じています」

⇒第10回につづく

  
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