2023年2月6日(月)

Wedge REPORT

2019年4月1日

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土居丈朗 (どい・たけろう)

慶應義塾大学経済学部教授

専門は公共経済学、財政学、税制等。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手等を経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。近著に『平成の経済政策はどう決められたか アベノミクスの源流を探る』(中央公論新社、2020年)がある。

 では、その結果はどうだったか。保守的な前提のうち、最も低い成長率のケースでは、マクロ経済スライドが貫徹される前に50年代に年金積立金が底を尽き、後の所得代替率が35%程度になるとの結果を公表した。ちなみに、年金積立金が枯渇しても年金財政は破綻しない。その年にとった年金保険料を、そのままその年の高齢者への給付に充てれば、年金給付は(見込みより少ないとはいえ)出せるからである。

 今後もマクロ経済スライドの効きが悪いと、所得代替率が高止まりし、現役世代の賃金が増えない分保険料収入が増えず、年金給付は積立金の取り崩しで穴埋めせざるを得なくなる。これが積み重なって、50年代に積立金が枯渇する懸念は、今年の財政検証でも残っている。

 ただ、それを回避する方法はある。少子化は確実に進行しているのだから、賃金上昇率が低くてもマクロ経済スライドが毎年発動されるように法改正すればよい。そうすれば、今の高齢世代の給付を抑制できて世代間格差が是正でき、年金積立金を温存して将来世代の給付に充てることができる。

 しかし、マクロ経済スライドが効くと、将来の基礎年金給付が目減りし、基礎年金しかもらえない単身高齢者の生活を苦しめるという支障が出る。これを回避する方法は、平均以上に厚生年金の給付をもらう人の基礎年金給付を減額する仕組み(クローバックといって、カナダで導入されている)をわが国でも導入することである。

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 現役時に保険料を払ったのだから、給付をもらう権利があるとはいえ、基礎年金給付の半分は、今年の税金で財源が賄われている。平均以上に厚生年金の給付をもらう人の基礎年金給付の財源に充てている税金を、より低所得の高齢者の基礎年金給付を増やしたり将来に積み立てるなりすれば、基礎年金給付が目減りするのを防げる。

 基礎年金給付が目減りすることは、決して他人事ではない。基礎年金だけでは生活できない高齢者で、財産や身寄りがない人は、生活保護受給者になる。生活保護受給者の医療費は、全額税金で賄われる。生活保護受給者でなければ、自ら医療保険料も払うし、患者負担も払う。高齢の生活保護受給者が増えれば、その分税金で賄うことになり、国民全体で負担することになる。老後の生活を、生活保護制度ではなく、基礎年金制度で支えることで、自律して安心できる老後を保障できる。そのためにも、マクロ経済スライドのフル発動と基礎年金でのクローバックの導入が必要である。

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◆Wedge2019年4月号より

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 
 


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