ところで、ヘシコ。鯖などの魚を米糠(こめぬか)に漬けた、若狭地域の名物である。ヘシコは「圧(へ)し込(こ)む」、つまり、漬け樽に素材をびっしりと押し込む、詰め込むことをさす方言が語源らしい。フグの卵巣で有名な、石川や能登の米糠漬(こんかづ)けと同類である。そして、中でもよく出来た鯖のヘシコはたまらぬ美味だと思う。特に酒飲みには。
どうせなら作っているところも見せてもらおうと、訪ねたのが海産物を扱う会社、「田村長(たむらちょう)」。江戸時代から続く老舗である。
鯖は内臓やエラなどを取って、きれいにした上で、一旦、塩漬けにしたものを樽に、圧し込む。きれいにびっしりと並べて、米糠と圧し込む。重石をして、密封し、漬け込む。かつては各家庭、今では会社によって、秘伝のあれこれが加わったり、糠の選び方によって味が違ったり、と社長の田村仁志さんが説明してくれる。
冬場に漬け込み、少なくとも、一夏は越させる。塩漬けの鯖が、米糠によって乳酸発酵するのだ。特に夏場の暑い中で、アミノ酸の旨みが増加して、独特の味わいを作るということである。なるほど、フナズシのようなナレズシのお仲間なのである。
作業場で見せてもらった後、田村長で経営しているという料理屋さん、「ほり川 田村長」で改めて味を見る。刺身のようにスライスして、柑橘を搾っただけのもの。そして、炙った焼き鯖状のものも一緒に。
至福。特に「黒龍(こくりゅう)」のように美味しい酒があれば。ヘシコは一通り料理と酒を楽しんだ後がよいと、田村さんにアドバイスされたけれど、確かに。そうしないと、御食国の数々の美味が楽しめなくなってしまう。それにしても、保存する知恵が美味と嗜好を作るのだと改めて実感させられる、鯖を楽しむ旅だった。
■益田商店 元祖朽木屋
小浜線小浜駅から徒歩約8分
福井県小浜市小浜広峰39
☎0770(52)0187
営業時間/8時~17時(品物がなくなり次第閉店)
定休日/1月1日・2日
■お食事処 濱の四季
小浜線小浜駅から徒歩約20分
福井県小浜市川崎3─5
☎0770(53)0141
営業時間/11時~19時30分(14時~17時は喫茶・テイクアウトのみ、平日は14時まで)
定休日/水曜、年末年始
■ほり川 田村長
小浜線小浜駅から徒歩約10分
福井県小浜市小浜住吉30
☎0770(52)2311
営業時間/12時~14時、18時30分~22時(日曜夜は休業、土産販売は10時~18時)
定休日/月曜
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