2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月4日

 トランプ大統領の米軍経費負担要求戦略「コスト・プラス50」については、様々な批判がある。「コスト・プラス50」とは、同盟諸国に対して、駐留米軍経費の全額プラス50%を負担すべきだというトランプ大統領の要求である。

Jun/Sudowoodo/AndreyPopov//iStock)

 トランプ大統領は、NATO諸国には、防衛費をGDP比で2%以上にするよう求めている。とにかく、同盟諸国に、より多くの防衛費や駐留米軍経費を負担させようとの要求である。

 先月2月、米国と韓国との間で、米軍駐留経費に関する新たな合意が発表された。それによると、今年2019年、韓国は、在韓米軍約2万6千人の駐留経費として、1兆400億ウオン(約9億2千万ドル)を負担することになった。これは前年比約8%増であった。ただ、この合意の有効期間はたった1年のみになった。

 日本と米国とでは、2011年と2016年に、5年間を有効期間とする協定を結んだ。現行の日米協定は、2020年度末に終了するので、恐らく来年春頃には新協定の交渉を日米間で始めなければならなくなるだろう。現行協定(有効期間2016年度から2020年度まで)は、2016年1月に署名され、国会承認を得て同年4月1日に発効した。この協定に基づき、日本は、米軍駐留経費の労務費、光熱水道料等及び訓練移転費を負担してきた。前の2011年協定と比べ、労務費については、日本が負担する労働者数を増加し、光熱水道料等は引き下げ、訓練移転費は維持するとともに、米軍による一層の経費節約を明記した。

 米国にとって重要な同盟国である日本には、約5万6千人の米軍が駐留している。これらの米軍は、日米安全保障条約に基づく日米防衛コミットメントを裏打ちすると同時に、インド太平洋地域での中国の台頭を含む様々な事態に対処するものである。

 いずれにしても、トランプ大統領の「コスト・プラス50」の考え方は問題である。なお、3月14日、シャナハン国防長官代行は、上院軍事委員会で、この点に関する報道を「間違いだ」と否定し、「大事なのは公正な負担だ」とも述べたと報道されている。同盟国との交渉を、かかるブラフでやるのは同盟国間の信頼関係を損なうものだ。正に不動産取引の手法である。駐留米軍は日本などホスト国を守るためだけにあるものではない。米国の重要利益にもなっている。トランプの考えはゼロ・サムでコストだけの発想であり、間違っている。また同盟関係とは、駐留米軍の問題だけではなく、当該国との種々の軍事協力活動から成るものであり、その重要性を忘れてはならない。

 日本の場合、我が国の防衛だけでなく、種々の協力、活動を通じて、インド太平洋地域の安全保障に極めて大きな貢献をしている。更に、日本は既に大きな負担(毎年 約2000億円)をしていることを認識して貰う必要がある。純粋に数学的比較は困難であるが、わが国の貢献は世界で最も大きいと理解される。また、訓練移転費の負担などは重要である。

 駐留経費に関する協定の有効期間も重要な要素である。累次の交渉を経て有効期間は現在5年に延ばされているが、同盟関係の安定のためにも5年が望ましい。昨年行われた韓国との交渉では韓国が少なくとも3年の有効期間を主張したが、結局1年になってしまった。ただ、新協定が出来ない場合、延長が可能との規定はある。 

 米軍経費負担問題の観点からも、日本は引き続き、自衛力の強靭化に努めるとともに、米国等と地域、世界の平和と繁栄のために協力していくことが肝要であることは言うまでもない。
 

  
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