2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年12月2日

 日本の不動産バブルは銀行と企業の間で起こった現象だった。銀行が不良債権処理を行い、企業が巨額の損失を計上するか倒産することで、処理がなされた。

 米国のサブプライム・ローンは、住宅ローンの問題であり、銀行と家計の間の問題である。家計は負債の処理が簡単ではないため、企業よりも多くの時間を要する。さらに、米国の銀行は投資適格に値しないCDO(債務担保証券)を世界の投資家にばらまいていた。レバレッジがより効いていたという意味で、日本や欧州よりも根は深い。住宅金融の処理はいまだ5合目前後とみておくべきだろう。

 欧州も楽観視できない。米国は、自らが用いた国家が信用創造する方法をユーロ圏にも勧めているが、すでに財政赤字が膨らんでいるユーロ圏内からは危険性を指摘する声が挙がっている。

 最良の方法は、「Fire Power(火消し能力)」つまり、資金を持っているプレイヤーに助けてもらうというシンプルな解決策だろう。中国やブラジルといった新興国に頭を下げるのである。

 金融の膨張で彩られたこの10年は、「パワーシフト」の時代でもあった。以前は、先進国の問題は先進国だけで解決できた。しかし、中国、インド、ブラジルといった新興国が大きく力をつけており、これからはあらゆる経済問題が先進国だけの閉じた系では解決できなくなる。今般のユーロ危機は、いずれ新興国の協力を仰がざるを得ないだろう。そうなれば、ユーロ危機は、「パワーシフト」を活用した初めての事例となる。

金融自由化とグローバリゼーション

 金融膨張の時代を創り出すインフラとなったのが、規制緩和、金融自由化、そしてグローバリゼーションであった。

 40年前、ローマクラブの『成長の限界』が世界を震撼させた。資源の枯渇や環境の悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしたのだ。実際にオイルショックが起き、皆がやはりそうかと思い始めたところに、米レーガン政権と英サッチャー政権が登場した。

 ここに、規制緩和を推し進め自由化すれば、先進国もまだ成長できるという考え方が生まれる。ミルトン・フリードマンの主張に強く影響されたイデオロギーである。

 80年代後半には、市場の合理性への信仰が浸透。自由な市場にすればうまくいく。市場には変動があるが、それはむしろ長期的には安定をもたらす。政府は余計な介入はしない方がいい。当時、私のような金融業界人は、そんな思想にどっぷり浸かって仕事をしていた。

 一方で「グローバリゼーション」という言葉が人々の口に上るようになった。世界各地の投資機会を狙って、収益率の高いエマージングマーケットへの進出を競い合った。銀行が旧来の融資ビジネスに依存していることは「座して死を待つこと」であり、欧米の銀行が戦略シフトする中で、邦銀の銀行マンを「自分達も変わらなければつぶれる」という恐怖感が襲った。

 高い収益率の見込める投資は高いリスクをはらむ。しかし、ポートフォリオ理論は「リスクは分散によって軽減される」と教えていた。80年代の成功は理論を裏付ける形にもなった。ちょうど技術革新で高度なコンピュータによる複雑な計算ができるようになり、世界中の情報を簡単に集められるようにもなった。


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