並行して、さまざまなスタンダードの統一が進められた。バーゼル委員会による銀行自己資本規制や、会計基準の統一が典型例だ。これは世界中で資金移動を行う欧米の銀行にとって好都合なインフラ作りだった。
グローバルな資本の振る舞いと、「ベルリンの壁」崩壊に伴う社会主義体制の消滅は不即不離であった。そういう時代において、「グローバリゼーション」というのは格好の建前となったと言えよう。
始まった逆回転
金融「不自由化」
最近、米国は自力での経済成長が難しくなってきたことから、中国に対する人民元切り上げ圧力を強めている。自国を保護していこうという姿がありありと出ている。一方、欧州はギリシャ問題などで完全に内向きになっている。ユーロ安を放置するどころか、歓迎しているようにすらみえる。これらは2大通貨国(圏)による事実上の近隣窮乏策であり、保護主義、ブロック経済に至る前兆とも考えられる。米国のTPP戦略にもそれが見え隠れしている。
欧州は、為替などの金融取引に対して一定の税金をかける、「トービン・タックス」の議論を持ち出している(米国の経済学者ジェームズ・トービンに由来する)。この背後にあるのは、金融システムを支援する財源は、公的資金ではなく、金融自身が賄うべきだという考え方と、自由な資本移動は規制すべきだという考え方である。
欧米の動きは、これまでの金融自由化の流れからみれば明らかに異質だ。彼らは「フィナンシャル・リプレッション(金融抑圧)」、いわば「金融の不自由化」に向かっているのである。アジア通貨危機の際に、マレーシアのマハティール首相が金融市場に規制をかけようとして、「アンチ欧米主義者」と非難されたが、今それと似たことを欧米自身が実行しようとしているのは実に皮肉である。
グローバリゼーションは、終焉とまでは言えずとも、逆回転を始めたのは間違いない。米国や欧州の巧妙とも言うべき方針転換に、完全に置いていかれているのが日本だ。日本はいまだ「金融自由化」「グローバリゼーション」という一周遅れのイデオロギーから抜け出せていない。そんな無防備な日本をマネーが標的にした結果として、急激な円高が起きているのだ。
為替介入は効力なし
発想を転換せよ
大幅に円高が進んだが、その果実は消費者に還元されているだろうか。ユーロは数年前と比較して3~4割円高の状態だが、ドイツからの高級輸入車がそこまで安くなったとは聞かない。つまり市場にも非対称性が生じているのである。これを放置すべきではない。米国や欧州の経済がさらに深刻化すれば、60円台も視野に入ってくるだろう。
10月31日、「納得行くまで介入」(安住淳財務相)と、日本政府は為替介入の実施を発表したが、単独介入の効果は限られる。現状では、各国との協調介入は期待しづらい。
一つのアイデアとして、「マイナス金利」を提案したい。日本非居住の投資家が円を買ってドルを売る場合、日本の銀行口座に円預金を置くが、この預金に対して「マイナス金利」を適用するのである。一種の手数料とも言えよう。例えば、海外投資家の10億円以上の預金に対して年率1%の金利を課すのはどうか。海外投資家には不評だろうが、少なくとも投機的な動きを一掃することはできるだろう。