2024年2月22日(木)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年4月30日

鹿肉を日本ブランドとして世界に売れ!

 エゾ鹿は、2010年度には北海道全域における生息数が約65万頭と推定され、戦後最多となった。個体数の爆発的増加により、農林業被害や交通事故だけでなく、森林や高山植物などの生態系破壊の深刻化にもつながった。そうした意味で、鹿の可愛らしい姿をしながらも、「害獣」と位置付けられるようになった。しかし、「害獣」だからと言って、安く売る必要はまったくないのである。

知床半島のエゾ鹿(写真:筆者提供)

 鹿肉は高タンパクかつ低脂肪で、牛レバーと同じくらい鉄分も多く含まれており、栄養学的に非常に優れた食材である。鹿肉のカロリーは100gあたり、110kcalしかなく、300gの鹿肉ステーキを食べても、食材レベルのカロリー数はわずか330kcal。ささみと同程度の低カロリーなのだ。間違いなく健康食である。

 だったらもっと付加価値をつけて高値で売れば良いのに、なぜそれが実現できていないのか。相馬氏によると、狩猟免許をもつハンターたちは狩猟の腕がプロ級であっても、料理に関して知識を持ち合わせていない(彼は稀有な例外であろう)。鹿肉の美味しい食べ方、食べさせ方に疎い。まして、マーケティングとなると、まったくの門外漢になる。これらが供給側の阻害要因になっている。

 需要側にも問題が多い。鹿肉は、ヘモグロビンやミオグロビンといったヘム鉄を含むタンパク質を含有するため、ほかの畜肉と比較して肉の色が濃い赤となる。この赤色は血液を連想させてしまい、消費者に敬遠されることもあるようだ。この連想との関連性があるかどうか定かではないが、世間では鹿肉は「硬く匂いがきつい」という通説的評価も多い。実は鹿肉は柔らかく匂いが穏やかな肉である。昨今、血抜きの技術の向上もあり、私が食べた経験では、まったく臭みはない。

 フレンチなどのヨーロッパ系料理を見ると、鹿肉料理には多様なレシピが存在している。たとえば、鹿肉の赤ワイン煮込み、さらにスパイスやハーブの風味を加えると、完全な臭み消しになる。これを日本風の煮込み料理に置き換えることも可能だろう。シンプルなグリル系も問題ない。今回札幌で食べた鹿焼肉も大変美味しかった。しかしながら、現状として日本の場合、鹿肉がそのグレードに見合う市民権を得られていないのは非常に残念なことだ。

 海外に販路を求めるのも面白い。輸出入法制度の関門をクリアすることは必要だろうが、それに先立って市場の特定・確保や消費者の育成が第一義的な打開策になろう。たとえば、香港やシンガポール、中国。野生動物の肉である鹿肉は、滋養強壮の食材に位置付けられているだけに、高い付加価値がつきそうだ。

 中華圏以外には、ハラール食材としてイスラム市場へのアプローチも考えられる。ドバイ辺りの上級グルメ市場には、日本の北海道産というブランドを打ち出せば、これも付加価値増につながるだろう。

 エゾ鹿の害獣イメージをエレガントな日本ブランドに変える。こういう発想転換があっても良いのではないか。

連載:立花聡の「世界ビジネス見聞録」

  
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