2024年4月26日(金)

Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年5月22日

チーム作りに一番大切なことは「みんなが同じ絵を見ること」

――最後の逆転シーンでペナルティゴールではなく、トライを取りにいくという決断を下されましたが、その究極とも言える判断の基準は何だったのですか?

 簡単には答えられない質問です。まず、日本代表の活動中はチームメイトといろいろ話す機会を作るように心がけて、その人が何を考えているか理解するように努めています。自分だけが判断して決めるのではなく、みんなが思っていることを感じて判断したいと思っているからです。

 試合中の状況判断はチームメイトの表情や相手の表情、時間、点差、チームの勢い、自分たちのエナジーなど様々な要素を考えながら答えを出すのですが、あのシーンは僕だけの判断ではありませんでした。みんなの表情やフィーリングであったり、『いける』という声もあって攻める判断を下しました。

 最後は僕の判断ですが迷いはありませんでした。

――様々なバックグラウンドを持つ選手たちをまとめる上で一番心がけていることはどんなことでしょう?

 僕は「オフザフィールドで連携を取ることが得意なキャプテン」だと思っています。グラウンド外でも選手同士や選手とスタッフ間に良い連携を取れることが強みです。チーム内に良いラインを作って選手が感じていること吸い上げてリーダーたちで話し合い、それをHCやスタッフに伝えるようにしています。

 こうした関係を作ってお互いに理解を深めるようにしています。

 チーム作りに一番大切なことはみんなが同じ絵を見ることです。すべての選手が同じ本を同じ速度で同じページを読み進んでいくように。

 同じ絵と言っても特に理想のチームというものがあるわけではありません。あるのは一番強いチームを作ることだけです。そのためにはチームワークが大切で、お互いに理解し合い、助け合えるチームになることです。

 その上で戦術の一つひとつが上手くいくことによって、みんなが自信を持てるようになり一体感が強くなります。それによって試合に対するパッションが生まれます。その土台となるのが信頼関係ですから、それを築くことが大切です。

――キャプテンシーやリーダーシップについてどのように学んでいるのですか?

 はじめは苦手でしたが、いろいろな人の背中を見て学んだり、リーダーシップに関するたくさんの本を読んできました。毎日が勉強だと思って、時間を掛けて経験を積みながらここまでやってきました。

 その中で印象に残っているエピソードがあります。ニュージーランドに行ったとき軍の関係者から聞いた話です。

 アフガニスタンの山の中で奇襲攻撃を受けたとき、煙で視界が遮られている中、経験の浅い兵士がやみくもに山に向かって撃ち掛かってしまい、味方に怪我人が出てしまったそうです。焦りから状況もわからず見えないところに撃ってしまうのが一番やってはいけないことです。

 このエピソードがなぜ参考になったかというと、いかに訓練をしていても強いプレッシャーを受けると練習通りにできる人とできない人がいるということが分かったからです。

 僕たちはいかなるプレッシャーが掛かろうと練習通りに行動できるよう心がけています。

キャプテンとは「みんながきついときに頑張れる人」

――日本代表のキャプテンという重圧に耐えるモチベーションの源泉はどこにあるのでしょう?

 僕は日本選手の強さをよく知っていますから、それを世界に証明したいと思っています。純粋に日本ラグビーを強くしたい。それがモチベーションの源泉かなと思います。

 それにプレッシャーはあまり感じないしむしろ好ましいと思っています。もしプレッシャーがなければいい加減な準備をしてしまうからです。

 プレッシャーが大きければ、それだけパワーにもなるし準備のための原動力になります。グラウンドに立ったときには「準備はすべてやり切った」と言えるほどの準備を積み重ねて、あとは戦うだけという気持ちで臨むだけです。

――ご自身が考えるキャプテン像とは。

 キャプテンはチームの状況が厳しいときや、チームメイトが苦しいときに先頭に立たなければいけません。言葉にするのはすごく難しいですが、一言でいえば、みんながきついときに頑張れる人だと思います。

 チームのみんながキャプテンに頼るのは一番きついときです。その一番きついとき、みんなが一番しんどいと思っているときにこそキャプテンシーを発揮しなければなりません。

 逆にみんなが楽なときは何も話さなくていい。

 チームが苦しい状況に陥ってしまったときは、しっかりプランを立てて、冷静にチームを立て直すことがキャプテンの役割だと思っています。

――最後の質問です。 ワールドカップ日本大会の目標をお聞かせ下さい。

 プール戦から勝ち上がって、ベスト8からさらに勝ち上がっていくことを目標にしています。ジャパンの目標はベスト8じゃない。ベスト8は好きじゃないし勝ちじゃない。僕は決勝トーナメントを勝ち上がることしか考えていません。

 今はただ勝つことだけに集中していますが、大会が終わったあとはもっとラグビー人気が高まって、トップリーグ熱が高まってほしいと思っています。ラグビーの専用グラウンドもできたら嬉しいですね。

 ファンが増えれば選手もハッピーですし、日本代表に入りたいと思う選手たちも増えてきます。

 子どもたちに「将来の夢は?」と聞いたら、「オールブラックスになりたい」と返ってくることがあるのですが、日本代表になりたいという子どもを増やしたいと思っています。

 そういう意味では今大会の日本代表の役割は大きいですね。

――ときおり陰翳の濃い表情を浮かべ、慎重に言葉を選ぶ姿が印象的だった。

 リーチ・マイケルの哲学者然とした風貌はきびしい風雪に耐え抜いた巨木の趣がある。開花のときは世界を迎え撃つ秋か。

 

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