今後の自動車業界の行く末を左右する自動運転技術の開発競争。米Google(グーグル)陣営が先行する中、世界中の企業を巻き込みながら追いかける日本のベンチャーがある。
「自動運転開発は陣取り合戦だ」
自動運転ベンチャーTier Ⅳ(ティアフォー)の創業者で、東京大学大学院情報理工学系研究科准教授の加藤真平はそう語る。
加藤は2015年、世界初のオープンソースの自動運転用OS(基本ソフト)である「オートウェア」を開発した。同年、ティアフォーを創業し、17年12月には日本で初めて、公道で完全自動運転の実証実験を行った。今春からは愛知県の「愛・地球博記念公園」で完全自動運転車両による「ライドシェア」も試験的に提供している。オートウェアはだれでも無償で使える自動運転用OSだ。主に研究開発用途として国内外で既に100社以上、30種類以上の自動運転車両に導入されており、ソフト開発者が集うコミュニティーサイト「GitHub(ギットハブ)」では3000以上のスター数を獲得し、好評価を得ている。OSのソースコードも公開しており、だれでも自由に改良できる。
自動運転開発はグローバルで競争が行われている。けん引するのはGoogle系の米ウェイモだ。公開されているカリフォルニア州の自動運転の公道実験の結果(18年)によれば、ウェイモの完全自動運転車両の総走行距離は1年で約125万マイル(約201万キロ)に達しており、そのうち、自動では制御できずにドライバーが運転に介入した頻度は1万1017マイル(約1万7730キロ)当たりに1回と、他社を2倍以上引き離している。対するティアフォーは米エイペックスらと実証実験を行っているが、国内外を合わせても走行距離ではウェイモに及ばない。
しかし加藤は、独自の仮説でウェイモ追撃への自信を覗(のぞ)かせる。「汎用(はんよう)のAI(人工知能)が存在しないように、Googleの自動運転用OSも、実験を行っている環境以外でそのまま使えるわけではない。地域や車両ごとに個別開発する要素が必要なはずだ」
自動運転車両が走行するには、地形や地物の情報を含んだ三次元地図データと運転の認知・判断・操作を司(つかさど)る自動運転用OSが必要となる。加藤によれば、OSは市街地や過疎地など、地域の特性に加え、大型トラックや小型車など、車両の仕様でも変わり、完全自動運転として用いるには、世界中で環境ごとの特性に合わせた開発が必要だという。
そこで加藤は昨年12月、一般社団法人「オートウェアファウンデーション(AWF)」を設立した。同法人にはトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI−AD)や日立製作所、米インテル、英アームなど25以上の企業や団体が参加し、共同で「オートウェア」を開発している。現在は毎月追加で10社程度の参加があるという。
「世界中にオートウェアの開発拠点を作れば、環境ごとの個別開発ができるようになる。また、ティアフォーのようなベンチャー単独では不可能な高度な実験や、特殊なノウハウを要する国際標準化機構(ISO)への申請などを分担することも可能になった」