インドが受けた「とばっちり」?
このコラムでも再三指摘しているように、原油を筆頭に多くの原材料・中間財・製品を輸入に頼っているインド経済のここ数年の最大の頭痛の種といえば「安定しないルピー相場」である。インド政府や経済界はこの頭痛の種を注視し続けている。
実際、昨年秋ごろの記録的なルピー安はインド経済にジリジリと大きなダメージを与えた。ルピー安による原油ひいては原材料価格の高騰が企業業績を悪化させ、インフレによる個人需要の後退を引き起こしたからだ。国内2位の大手航空会社ジェットエアウェイズをたった1年で操業不能に追い込んだのは記憶に新しい。
今年に入り少し持ち直す傾向にあるものの、そんなルピー相場がこの米中貿易戦争の先行き不安に合わせて再び下落の兆しを見せている。
米中の諍いの先行き不安から人民元は長いこと低調な相場を推移している。その影響が徐々にインドやトルコをはじめとした他の新興国通貨全体に及び始めたのだ。こればかりは為替市場の問題であるためインド政府もただただ「見守る」しかない非常にもどかしい問題なのだ。
また、今年3月にトランプ大統領がGSP(Generalized System of Preferences: GSP)制度の対象国からインドを除外すると発表したことも、インド経済界に衝撃を与えた。GSPとは日本語で「一般特恵関税制度」という意味だ。インドのような途上国からの輸入に対し、関税を低めに抑えることでその途上国の経済発展を促進し、その途上国の国内需要の増大を促進する。すると結果的に先進国から途上国への輸出が増え、先進国の自国経済を豊かにする。こうした発想から設けられている制度である。
トランプ大統領は3月、インドに対してこの制度を停止する旨を発表。同日、トルコに対しても同様の措置をとる方針を発表した。米中貿易交渉でいまだ目に見える形の大きな譲歩や成果を引き出せないトランプ大統領が、国内向けに成果をアピールする目論見があったとも推測される。
これらの問題は、不透明で出口の見えない米中貿易戦争が生んだ「二次副産物」と言える。いや、インド経済にとってはマイナス効果があるので「とばっちり」と言ったほうが分かりやすいだろうか。日本同様、インドでも米中貿易戦争は米中2国間の問題ではなく、国内経済の趨勢を決める重要な要素になっているのだ。