しかし、中国が78年末に改革・開放路線に転換し、92年に韓国と国交樹立したことで、中朝関係は冷却化した。その後、関係を修復したものの、政治や軍事より、経済実利に重点を置くドライな関係に変質した。正日氏は死去直前まで「血盟関係」を強調したが、中国側は近年、公式の場で「血凝友好」という言葉を用いることはほぼなくなっていた。
合同演習を中国に“拒否”された金正恩
かつて、中国には、北朝鮮について、米軍が駐留する韓国との間の「社会主義の擁壁」として重視する考え方もあった。だが、冷戦が終わり、「擁壁」自体が朝鮮半島の「火種」となっている現在、擁壁論は時代遅れと言わざるを得ない。日本メディアがいまだに、北朝鮮は中国の「擁壁」「緩衝地帯」として、中朝関係を論じているのを読むと、奇異に感じる。
複数の中朝関係筋によると、今年4月、米韓の合同軍事演習に対抗するため、北朝鮮が中国に同様の演習実施を打診したが、中国側は「米韓を刺激する」として応じなかった。演習打診は正恩氏の意向だったとされる。共同通信が8月7日に配信したこの特ダネ記事は何より、中朝関係の変質を象徴している。
日中首脳も協力で一致
野田佳彦首相は12月25日、中国の温家宝首相と北京で会談し、朝鮮半島の平和と安定に向けた協力で一致した。
温首相は会談で「関係国が冷静さを保ちながら6カ国協議を再開し、対話と協力を通じて非核化を実現したい。朝鮮半島の長期的な安定を図りたい」と述べた。
中国が何よりも願うのは、自国が経済建設に集中するための平和的な環境づくりだ。北朝鮮が核兵器の開発を放棄し、改革・開放を進めて国民生活を安定させるように心から望んでいる。
北朝鮮からの大量難民流入で被害を受けるのは中国
中朝の国境線は約1300キロにわたり、北朝鮮で混乱が起き、大量の難民が流入すれば、中国は大きな被害を受ける。正日氏の死去後、中国が万一に備え、国境地帯に厳戒態勢を敷いたのも無理はない。
朝鮮半島の非核化を目的とする6カ国協議は08年12月に決裂し、中断したままだ。温首相は正日氏死去を受けて、議長国として、北朝鮮、韓国、日米、ロシアに冷静な対応と、協議の再開をあらためて呼び掛けたわけだ。
ただ、日中首脳会談を伝えた中国の官製報道は、北朝鮮問題について、記事の末尾で極めて簡単に触れるにとどめた。これもまた、今後の交渉のために北朝鮮を刺激せずにおこうとの気配りだ。
難しい対北朝鮮工作が求められる中国
先の中国筋は「正恩氏の権力継承は正日氏の側近や軍のサポートを受け、順調に進むだろう。ただ、米韓との緊張が高まれば、不測の事態も起きうる」と分析した。