北朝鮮の最高指導者、金正日総書記が12月17日、死去した。軍優先の「先軍政治」を掲げ、核兵器やミサイルを開発して世界を騒がせてきた独裁者の急死。北朝鮮の不安定化への懸念が広がる中、最も親しい隣国、中国は正日氏の3男正恩氏(28)の後継体制をすばやく承認した。しかし、若く政治経験のない正恩氏の指導力は未知数。権力固めに失敗したり、軍事的に暴走したりすれば、中国は意外にあっさり正日氏の“遺言”に背き、「金王朝3代目」を見捨てるかもしれない。
2年間で4回訪中した金正日の“遺言”
北朝鮮が正日氏死去を発表した翌20日付の中国共産党機関紙、人民日報は一面トップで大きく死去を伝えた。
「朝鮮人民は金正日の遺志を必ず引き継ぎ、朝鮮労働党の周囲に緊密に団結し、金正恩同志の指導の下、悲しみを力に変えて、社会主義強盛国家を建設し、朝鮮半島の持続的な平和を実現するために引き続き前進するであろう」
記事で紹介した党中央の弔電の中で、中国指導部は正恩氏を後継者として承認したことを内外に宣言した。
「正日氏は死去前に正恩氏への権力継承の準備をすべて終えていた。中朝の友好は中国の毛沢東、周恩来、北朝鮮の金日成ら、かつての指導者が築き上げた。北朝鮮の指導者が代わっても揺るがない」
北朝鮮問題に詳しい中国筋は、正日氏の“遺言”により、中国指導部がかなり以前から正恩氏後継を承認済みだったことを示唆した。中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)ら党中枢の政治局常務委員メンバー9人全員が北京の北朝鮮大使館を弔問した。
これは党・政府の外交プロトコールにおいて、破格の厚遇だ。今、他国の首脳や元首脳が亡くなったとしても、ここまでの手厚い弔意の表現はないだろう。腫れ物にさわるようでもある。
北朝鮮との良好な関係を維持し、中国に被害を及ぼす北朝鮮の不安定化は何としても阻止したい中国指導部の狙いがみてとれる。
正日氏は昨年と今年2回ずつ、極めて異例に頻繁な訪中をした。これは中朝の友好を確認し、中国指導部から正恩氏後継への支持を取り付けるためだ。正日氏は自らの死期が近いことも知っていたに違いない。
変質した中朝関係
朝鮮戦争(1950~53年)の時、中国は大量の義勇軍を送って北朝鮮を支援した。ゆえに中朝関係はかつて「血凝友好(血で固めた友好)」と形容した。「唇亡歯寒」(唇亡くば、歯寒し)という言葉を用いて、中朝が運命共同体であることを強調した。