2024年2月21日(水)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2019年7月25日

 浮世絵版画は、「絵師」の広重さん、版下絵から版木を彫る「彫り師」さん、その版木で摺る「摺り師」さんのチームワークによる作品です。この作品には摺り師の最高技術、「あてなしぼかし」が読み取れます④。ふぅわっとしたこの雲。摺るときに版木を水で湿らせ、そこにインクを落とします。色がにじみ出した瞬間を紙に摺り取り、どんな形になるか「当てにできない」、勘のみが頼りのぼかしです。淡い「丸いスジ」は、摺り師さんが馬簾(ばれん)でクルクルこすった跡(⑤)。江戸の職人さんはおやりになります、いい仕事です。

上(④)、下(⑤)

 この作品がヨーロッパに渡り、印象派の画家たちに大きな影響を与えたといわれています。なかでもゴッホさんは、この絵の、この月のかげの、柔らかい美しさに魅了され、いろいろ習作を描き憧れました。それにしても広重さんに影までつけてもらって、子犬くんたちもかわいい(⑥)。

 また江戸の早ずし、今の「にぎり」の元祖が描かれています。担ぎ屋台の露天商は猿若町でも通りの真ん中で営業中(⑦)。1個が4文、だいたい100円くらいからでしょうか。ネタは酢で締めたものがほとんどのファストフード。少々大きめだったのか、気の早い江戸っ子さん、ひと口に放りこみたくて「おい親父、面倒だ、真ん中で切ってくれ、2つにポンと切っとくれ♪」というわけで「お寿司は2貫で供される」ともいわれています。

左(⑥)、右(⑦)

 さらに猿若町の恋物語、ロマンスです。優男の職人(⑧)が見上げる先は、お茶屋の仲居さん(⑨)。見上げ見下ろし見つめあう2人は、お江戸のロミオとジュリエット(?)。   

左(⑨)、右(⑧)
 
 
atelier PLAN=地図制作 写真を拡大

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー、東横イン 文化担当役員。各所でお江戸にタイムスリップするような講演が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

NHKプロモーション=協力

  
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◆「ひととき」2019年7月号より

 



 


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