CASEの時代、FCAとの統合、自動車産業の世界再編の気配
日産側の総大将である西川氏だが、「孤高の経営者。他人の話を聞かないタイプ。プライドが高く、頭を下げるのを嫌う」(日産幹部)と指摘される。現実に、完成検査問題が発覚した2017年秋、最初の謝罪会見で数秒しか頭を下げなかったことが話題になった。
東大経済学部卒で購買出身。「戦国時代の石田三成ではないが、才が高い分、西川さんは頑なで、周囲から理解を得られない面がある」(同)。
こうしたなか、総会前の6月16日付で川口均氏が専務から副社長に昇格した。川口氏は西川氏と同じ1953年生まれ。一橋大学経済学部を卒業し76年に入社。欧州事業や人事、グローバル渉外、政府の窓口役を務めてきた。「明るい性格の川口さんが、西川氏と社内、さらに日本政府とをつなぐパイプ役として機能していく。もちろん、ルノーとの間にも立つ」(別の日産首脳)。
ゴーン元会長は、日産を高配当させることでルノーに利益を与え、関係を安定させてきた。「アライアンスにおいて、両社は対等の関係」を20年近く継続させてきた。
だが、日産は高配当を改めて、不振のアメリカ事業の立て直し、さらにCASE(接続、自動運転、シェアリング、電動化)への開発投資を、優先させていく。特に、北米の販売が回復しないようなら、日産の独立性確保は危うさを増す。
一方、日産社内に足場を築いたルノー。日産株主総会でスナール会長は「日産の取締役として従業員の幸せのために行動する。株式の持株比率の違いを利用したことはない」と発言した。
1999年からの大株主ではあるが、「100年に1度の変化」と言われるCASEの時代を迎え技術面では日産に多くを依存している。もちろん、生産台数でも差は大きい。したがって、日産はルノーにとっての生命線である。経営への関与を高め、統合へと舵を切っていくはず。したたかにである。
スナール会長は、ルノーとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の経営統合が白紙になったことにも触れ「世界のライバル会社が一番喜んでいる」と指摘した。
急浮上して短期間に流れた案件だったが、実は次のような指摘をするヨーロッパの証券関係者もいる。
「フィアットの創業家であるアニェッリ家は、実はFCAを売却したがっている。日産との関係で世界から注目されているルノーに統合提案したのは、現代や中国メーカーなど日本以外の自動車メーカーから興味を引くためのパフォーマンス」。ちなみに、アニェッリ家は一族の投資会社エクソール(オランダ)を通しFCAの大株主になっている。
ルノー、そしてフランス政府がどう捉えていたのかは、わからない。
昨年11月のゴーン元会長の逮捕で始まった、ルノー対日産の日産の経営権を巡る攻防。何をもって経営の独立性なのか、流動性は多く、そのポイントも見えにくい。だが、100年に1度の自動車産業の変化と重なり、一段の世界再編が巻き起こる気配である。
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