6月23日に行われたトルコのイスタンブール市長再選挙の結果は、「地殻変動」と呼び得るものとなった。3月の統一地方選挙で、エルドアン大統領とその与党AKP(公正発展党)はユドゥルム元首相をイスタンブール市長候補として推したが、野党CHP(共和人民党)のイマモール候補に僅差で敗れていた。これに強い不満を抱いたエルドアン大統領とその与党AKP(公正発展党)が再選挙を求め、トルコの選挙管理委員会が圧力に屈した結果、再選挙となったわけであるが、イマモールが約54%の得票をしたのに対し、ユドゥルムは約45%で敗北した。文句のつけようのない、イマモールの勝利であった。
イスタンブールはエルドアンの地元であり、エルドアンにとって、イスタンブールの持つ意味は大きい。それにイスタンブールは人口が約1600万もあり、トルコの全人口は約8000万であるから、5人に1人のトルコ人はイスタンブールにいることになる。エルドアンは、かねてより、イスタンブールを制する者がトルコを制する、イスタンブールで躓けばトルコでの足場を失う、などとイスタンブールの重要性を繰り返し口にしている。それが市長選のやり直しという強引なことをエルドアンにさせた背景であろう。そして、そのやり直し選挙で大きな敗北を喫したことは、エルドアンの求心力に打撃を与えることは確実である。
しかし、この地殻変動や打撃が何をもたらすのか、現時点ではよく見通せない。2017年の憲法改正(議院内閣制を廃止)の結果、エルドアンは2018年6月に新憲法下における権力が強い大統領に就任しており、その任期は5年、2023年まである。仮に、2023年に選挙に勝てば、さらに5年間、政権の座にとどまりうる状況にある。そういう制度面での彼の権力基盤と実際の政治での彼の権力基盤が、どのようにエルドアン政治に影響を与えていくのか、注目していく必要がある。
ただ、外交(特にロシアからの防空システムS-400導入と、米国からのF-35導入をめぐる対米関係)、経済(リラの相場や高金利の経済への悪影響)の問題が深刻化しているのは、エルドアンにとりマイナス要素であろう。その上、ダウトオール前首相やギュル前大統領などAKP内部から、AKPに対抗する政党結成の動きが見られるなど、エルドアンの今後の政権運営には諸問題がある。
エルドアンが今度のイスタンブールの選挙結果を深刻に受け止め、それなりに反省をして、あまりに強権的なやり方を改めることが肝要のように思われる。差し当たり、エルドアンも、彼が支持した候補であった元首相ユルドゥルムも、直ちに敗北を認め、イマモールに祝意を述べたのは賢明な判断であったと言えよう。しかし、エルドアンは、いろいろな局面において正面突破的やり方で成功してきたから、今後どうするかは分からない。
今回のイスタンブールの選挙は、トルコには民主主義がそれなりに根差しており、強権的政治はそれなりに反発を受けることを示していると見てよいのであろう。また、トルコ人は親米的であって、ロシアに対しては伝統的に警戒心があり、エルドアンのやり方はそういうトルコ人全般の考えとはずれがあるようにも思われる。
なお、イスタンブールの選挙結果を受けて、トルコリラは1%以上上昇した。市場は今度のイスタンブールの選挙結果を好感している。トルコ経済にとり、良いことであった。
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