6月28-29日に大阪で開催されたG20サミットでは、日印首脳会談、米印首脳会談の二国間の首脳会談の他、日米印の三か国首脳会談が行われた。前回12月のアルゼンチンでのG20サミットで初めて日米印の首脳が会談して以来、2回目の会談となった。世界の三大民主主義国ともいえる三国、インド太平洋の両端と真ん中を占める三国。三国関係は、それぞれ蜜月に見えた。
が、米中貿易戦争に世界の注目が集まる中、もう一つ、米印間にも貿易摩擦が醸成されつつあった。G20前夜の6月26日には、ニューデリーでポンペオ米国務長官が、米印関係について、両民主主義国間の「大望の新時代(a new age of ambition)」 を求めると述べたが、その直後、トランプ大統領は、6 月初めに課せられた米国の輸出品へのイン ドの高関税は「容認できない」と厳しくツイートした。
もともとインドは、規制が多いなど非関税障壁が高いと言われているが、トランプ大統領にとっては、とにかく関税が許せない。
米印貿易摩擦については、米国は多くの不満をもっていて、それを当然とする見方もある。平均関税は、米国の3.4%に対し、インドは13.8%と、桁違いに高い。その上、モディ政権になって、電子機器、携帯電話、自動車部品などへの関税を引き上げ、より保護主義的政策に転換した。
モディ政権が関税引き上げに踏み切った背景には、貿易赤字の拡大がある。2019年1月のインドの貿易赤字は163億ドル(約1兆7400億円)と、2013年5月以来の水準に達したと言う。関税引き上げで輸入減を期待しての措置ということである。さらに、インドのジャイリー財務相は、2018年2月の予算演説で、関税引き上げが国内製造業の振興策「メイク・イン・インディア」(Make in India)の追い風になると説明している。これに対して、トランプ政権が不満を持つのは無理もない。トランプ大統領は「関税男」と称されるぐらい、関税を武器に使って相手国との貿易赤字を減少させようとしている。相手国の関税引き上げについては、それが報復関税であろうとなかろうと鋭敏に反応し、批判している。
もっとも、インド側にも配慮に欠ける面がある。インド政府は、ハーレー・ダビッドソンへの関税を100%から引き下げたとはいえ、50%課し、トランプ大統領の反発を招いた。ハーレー・ダビッドソンは米国の誇る数少ない工業製品であり、トランプ大統領が自慢していたものである。ただ、EUがトランプ政権の鉄鋼・アルミ関税引き上げへの対抗措置として、ハーレー・ダビッドソンへの関税を6%から31%に引き上げると、ハーレー・ダビッドソンは、米国で生産しEUに輸出するのは採算が合わなくなるとして、EU向けの生産を米国以外の地域に移転すると発表し、トランプ大統領はこの発表に怒り、ハーレー・ダビッドソンを激しく攻撃したのは皮肉である。
このように、米印間には関税をめぐって摩擦があるが、米国は大局的視点を見失うべきではないだろう。
まず、経済面では、米国の2018年の対インド貿易赤字は242億ドルで、対中貿易赤字3786億ドルの7%にも満たず、しかも減少傾向にある。米国は、対インド貿易赤字に拘るべきではない。もっとも、トランプ大統領は大局的視点に立つことが苦手で、貿易赤字は赤字として、関税は関税として批判し続ける可能性が高い。
安全保障面で言うと、インドは米国にとって戦略的に重要な国である。米国防省は、インド太平洋戦略におけるインドの重要性を十分認識している。ただ、残念ながら、トランプ大統領は戦略的思考に欠ける。
インドの戦略的重要性を認識して、大した額ではなく、米国に対する影響もさほどないインドとの貿易赤字については拘らないというのが大局的視点であるが、トランプ大統領はインドの戦略的重要性は認めても、貿易赤字は、たとえ額が大したことがなくても、放置できないと考えているようである。これではインドの戦略的重要性を真に認識していることにならない。 トランプ大統領に大局的視点を求めるのは無理なことかもしれない。
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