WEDGE REPORT

2019年7月25日

»著者プロフィール
閉じる

露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

 この時、背後には次のような考え方が存在した。中国政府は2009年7月に、それまで対外的な取引に使用することが出来なかった人民元を、対外取引に使用できるようにした。いわゆる「人民元国際化」の開始である。当時、中国人民銀行の公表文で示された、人民元国際化開始の理由は、「前年(2008年)の世界金融危機において、主要通貨の為替レートが大きく変動し、海外との取引に第三国通貨を使用していると、大きな為替変動リスクにさらされたから、これを回避するため」だとされている。この第三国通貨は明らかに米ドルを指している。米ドルへの過度の依存から脱却するため人民元を国際化するということである。ここでは、為替変動リスクが取り上げられているが、それだけではない。海外との取引に米ドルを使用していると、その最終的な決済は、ニューヨーク所在の銀行同士がアメリカの中央銀行である連邦準備銀行に保有する米ドル口座間の振替によって行われる。アメリカ政府は、アメリカ国内において、この決済を停止することを銀行に対して命じることができる。これも中国にとっては望ましくない。

 2009年の人民元国際化のプロセス開始以降、中国政府は過度の米ドル依存からの脱却を最優先とした。代わりに人民元を使用できれば最も望ましいが、人民元は依然として規制が多く不便な通貨である。そこで次善の策として米ドル以外であればユーロや円など他の通貨でもよいという方針を示していた。これは、日本にとっても、チャンスである。2011年の日中金融協力合意は、中国側では人民元の国際化に役立ち、日本にとっては円の国際化や東京市場で人民元ビジネスを増加させ東京市場の活性化につながる。両国に利益があるものである。

 その後も、2015年6月に、日本のメガバンクによる東京市場での人民元建て債券の発行など、金融協力合意の内容に沿った動きが実現している。

米国による金融制裁の可能性

6月28~29日に大阪で開催されたG20サミット閉幕後に行われたトランプ大統領と習近平主席の会談において、3000億ドル分の中国製品を対象とした追加関税は当面見送られたが、米中の対立は長期化の様相を呈している。中国政府は最悪の場合も想定して、様々な対応を進めようとしている。最近、元中国人民銀行貨幣政策委員会委員の中国社会科学院・余永定研究員が行ったスピーチによると、アメリカによる「金融制裁」の可能性が挙げられている。これは基軸通貨である米ドルを利用した対外決済を不可能とするもので、戦争一歩手前の非常に厳しい措置である。

 実は日本も過去にこれを経験している。対米開戦前の1941年7月にアメリカ政府は日本の在米資産を凍結し、日本の米ドルによる対外決済を不可能とした。エドワード・ミラー著「日本経済をせん滅せよ」によると、内大臣木戸幸一は極東軍事裁判の法廷において、アメリカ政府のこの行為は戦争手段に等しいと主張している。

関連記事

新着記事

»もっと見る