2024年4月24日(水)

矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年7月30日

世界に広がる「金継ぎ」の心

 金継ぎは直すだけではなく、もはやアートの領域でもある。

 私がいつもお世話になっている金継ぎの職人さんは、金継ぎを直すだけではなく、アートと捉えてより芸術性高く生まれ変わらせる提案もしてくださる。

 日本だけではなく、昨年出張で香港へ行った際に、ギャラリーでPOP UPをされていて出会ったのがこの金継ぎアート。心を奪われて、お家へ持って帰ってきた。日本のみならず、海外でも金継ぎの作家さんが活躍されているのだ。

香港で手に入れた金継ぎアートのぐい呑(写真提供:筆者) 写真を拡大

 和えるでは、輸送中に破損してしまった器を、金継ぎでお直しして、販売するということも行っている。店頭であえて金継ぎの器を購入されるお客様は、外国人の方が非常に多い。日本人の場合、外国へ留学or赴任される方が求められる傾向がある。「金継ぎ=日本の美学」と捉えてくださっている方が多いのだろう。物に心を宿すということが前提にあり、物が壊れてもただ直すだけではなく、アートとして昇華させる心意気。まさに、世界から見た日本の美しい精神性が、具体的に形となって現れているのが金継ぎとも言える。

失敗から学び、成長できる社会へ

 ついつい大切な器は大事だからと、奥にしまいこんでいないだろうか。それが何よりも、一番もったいない器の使い方なのである。器は使われるために生まれてきており、もったいないから、壊したくないからという理由でしまいこんでしまったら、そもそも器が生まれた意味がなくなってしまう。生まれた意味を全うできないなんて、寂しすぎるではないか。(人間もそうかもしれない。人それぞれ、生まれてきた意味があって、社会に存在しているはず)

 本当の意味で器を大切にするというのは、毎日丁寧にたくさん使うこと。どんなに大切にしていても、形あるものいつかは壊れてしまうこともある。そんなときに活躍するのが、金継ぎのお直しだ。金継ぎのすごいところは、壊れてしまったものを、ただくっつけて直すのではなく、かっこよく、美しく新たな魅力を増して手元に戻ってくるところだ。

 もう一度、私たちは何のために物を生み出し、何のために物を捨てるのか考え直してみてはどうだろうか。本当に大切にしたい物を、直しながら愛着を持って人生を共にする生き方は、豊かではないだろうか。

 一生に一度は、金継ぎでお直しをするという体感をするのが当たり前になると、日本人の精神性をも含めて、日本の伝統を次世代に伝えることができるのではないだろうか。

 「壊れたら捨てる」から、「壊れたら直せないかな?」と、思考の選択肢を増やすことで日常が豊かになる。金継ぎを通して私はそれを学んだ。

 人は失敗から学び、成長する。より強くなることができる。

 それを知るから、他人に優しくなることができる。

 なんだか現代社会は、少し優しさが足りないが故に、いろんな社会課題が続出している。それは、金継ぎがない社会とリンクするようにも感じている。金継ぎをする豊かさと優しさが、再び社会のスタンダードになると、もう少し社会全体に優しさが戻るのではないだろうか。

連載:矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

矢島里佳(株式会社和える 代表取締役)
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

  
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