Washington Files

2019年8月5日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

道義的理由づけの欠如

 では次に、なぜイランを標的にした「有志連合」結成の動きが遅々として進展しないのかを改めて考えてみる必要がある。

 まず最大の理由は、道義的理由づけの欠如だ。

 すでに内外の多くの専門家も指摘する通り、今回のイラン危機のそもそもの発端は、トランプ大統領が関係各国を十分納得させるだけの理由説明もなく、昨年5月突然、イラン核合意からの一方的離脱を発表したことにある。

 イラン核合意は、2015年、米英仏独中露の6か国が当時核開発を進めていたイランとの間で、核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムの製造中止と、貯蔵済み濃縮ウランおよび遠心分離機の削減を約束させ、その見返りとして対イラン経済制裁緩和を約束したものだ。従って、最終的にイランから核兵器開発断念の約束を取り付けたものではなく、あくまで「15年間」の期限付き開発凍結の合意にすぎない。

 しかし、それまでイランは今世紀初めから着々と核開発に乗り出し、国際原子力機関(IAEA)分析でも、2011年までにすでに軍事転用可能なプルトニウム生産体制に入ったとみられただけに、危機回避の措置としては「当面、最善の選択」(米国務省)だった。

 そして、国連安保理では全会一致で支持が表明された。国際世論も、これが最終的解決策ではないものの、圧倒的にこの国際取り決めへの支持に回っている。

 反対にもし、この核合意をほごにした米国主導の「有志連合」の名の下に反イラン包囲網構築に加担することになれば、それは、ある意味で国連の意思に反旗を翻すことにもなりかねない。

 第二に、いうまでもなくペルシャワ湾のホルムズ海峡が世界のエネルギー供給の「大動脈」となっており、もし、同海峡におけるタンカー安全航行確保のための「有志連合」に加わった場合、湾岸情勢が一挙に悪化し、多くの国にとって、イランのみならず他の産油国からの原油輸入も危殆に瀕することになるからだ。

 たとえば、日本の場合、イランや最大輸入国であるサウジアラビアのほか、クェート、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)などからの原油の80%近くがホルムズ海峡を通過するタンカーで運ばれている。中国、韓国など中東原油に依存する他のアジア諸国の場合も同じだ。

 この点についてはイラン外務省スポークスマンも去る6月24日、コメントを発表、この中で「イランは近隣に15カ国を抱える強大な国であり、対イラン連合を結成すること自体、困難であり、失敗する」と強い調子で警告している。

 それでも今後、アメリカの執拗な説得工作が功を奏し、関係各国が自国タンカーの安全確保を目的とした護衛艦派遣などにあいついで乗り出した場合、イランは対抗措置としてホルムズ海峡での機雷敷設や空からの威嚇行動に出ることは必至であり、一挙に米―イラン間の戦争につながる恐れがある。

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