2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2019年8月5日

アメとムチで保守派を沈黙させる

 今回の制度改定は石油に依存しない経済体質の強化や社会的な抑圧制度の緩和というムハンマド皇太子が進める社会改革の一環だ。同国を牛耳る皇太子は「ビジョン2030」と銘打った改革政策をぶち上げ、昨年6月には女性の自動車運転を許可する決定を下した。このほか、女性が公共の場で娯楽を楽しめるよう、映画やコンサートの鑑賞、スポーツ大会の見学などができるように変えた。

 “二級市民”に甘んじてきた女性の地位向上の象徴的な人事が米国の大使にリーマ・ビント・バンダル王女を任命したことだ。大使としては初めての女性の起用。同大使は今回の「後見人制度」の緩和措置に対し、ツイッターで歓迎した。サウジ政府によると、改訂措置は8月末までに実施に移されるとしているが、実際には女性蔑視の古い慣行を直ちに是正するのは困難だとの見方が強い。

 アナリストの1人は「大きな一歩だが、結婚などは後見人の許可が必要で、実際に女性の権利が拡大するにはなお時間がかかる」との見通しを述べている。しかも、女性の権利向上を訴えてきた活動家ら十数人は依然投獄されたままで、同国の人権侵害の状況が改善されるのは簡単ではない。

 こうした一連の女性の地位向上については長年、同国の社会的モラルを仕切ってきた聖職者ら保守派が抵抗し、改革を推進するムハンマド皇太子のやり方に不満を高めてきた。だが、皇太子は一部の有力聖職者を拘束する一方、懐柔策も行使し、“アメとムチ”を駆使して保守派を沈黙させた。とりわけ、街中で女性の服装の乱れなどを取り締まり、時には棒で体を打つなどの乱暴を働いて女性たちから嫌われてきた宗教警察の権力を削いだのが大きい。

 その背景には同国の人口の60%が30歳以下の若年層で、保守派の影響力があまり及ばない層が人口の大勢を占めつつあることを指摘できるだろう。ムハンマド皇太子はこうした若年層の支持をバックに保守派の力を弱体化させることに成功した。

 皇太子は昨年、米国在住の反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害を命じた疑惑の中心人物として非難され、また対外的には隣国のイエメン戦争の泥沼にはまり込み、ペルシャ湾の対岸のイランとの対決が激化、苦しい立場に追い込まれている。そうした中での女性の地位向上の決定は皇太子のイメージを改善する一助となるかもしれない。

  
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