2024年12月2日(月)

中東を読み解く

2019年7月29日

 ペルシャ湾での米・イランの緊張が高まるのをよそに、シリア内戦の最後の戦いが北西部イドリブ県を舞台に激化の一途をたどっている。シリア政府軍はロシア軍機の空爆支援を受けて総攻撃を開始、ロシアが地上戦に特殊部隊を投入したとの情報も出ている。子供を含めた民間人の犠牲者はすでに450人にも上り、難民も急増、最悪の人道危機になりつつある。

政権側に空爆されたイドリブの町(Abaca/アフロ)

無差別爆撃の悲劇

 政府軍が総攻撃を始めたのは4月30日。政府側の発表によると、イドリブ県や隣接のハマ県などに立てこもる国際テロ組織アルカイダ系の「シリア解放戦線」(旧ヌスラ戦線)がイドリブ県の職員を殺害したことから、テロ組織の一掃作戦に踏み切ったという。これにより、昨年10月にトルコとロシアの仲介で成立した停戦は完全に崩壊した。

 政府軍は簡易焼夷弾の“たる爆弾”をイドリブ県の都市部などに無差別に投下、ロシア軍機も空爆を強化した。攻撃は市場や住宅地域、病院や学校、水道施設などに及び、7月27日も民間人11人が死亡した。24日のアリハの空爆では、がれきに埋もれて身動きの取れない5歳の女の子が、生後7カ月の妹が落下しないよう必死に服の端をつかんでいる写真が世界に流れ、大きな反響を呼んだ。結局、建物が崩れ、女の子は死亡、幼児は奇跡的に助かった(写真はこちら『This Heartbreaking Photo Captures the Horrors of Syria’s Civil War』)。

 空爆に加えて地上戦も激しさを増している。現地からの報道によると、政府軍は精鋭部隊の「タイガー軍団」に進撃させたが、反政府勢力の反撃に遭って失敗。このためロシアが「初めて地上部隊を投入」(反政府筋)、地上戦に直接参戦しているという。しかし、ロシア国防省は「フェイク」と一蹴、過去も、今もシリアにはロシアの地上部隊はいない、と否定した。

 これまでもロシア人が戦闘に加わっているという情報はあり、一部は傭兵部隊だと見られていた。また、地上戦にはイラン支援のレバノンの武装組織ヒズボラや、イラク、アフガニスタンからのシーア派民兵軍団も政府軍支援で戦っている。

 こうした連合軍の攻撃に抵抗している反政府勢力はトルコ支援の自由シリア軍などの武装組織だが、最強なのが旧ヌスラ戦線だ。形式上はアルカイダと決別したことになっているが、実体はアルカイダの思想や考え方をそのまま維持していると見られている。勢力は3万人程度とされており、指導者はアブ・ムハンマド・ジャウラーニ。

 しかし、最終戦争の激化に伴い、イドリブ県の住民約300万人のうち、すでに40万人が家を失って難民化。国連は最悪の人道危機になりつつあるとして、攻撃の停止を求め、米国務省も故意に民間施設が狙われていると非難したが、アサド政権、ロシア双方とも耳を貸す様子はなく、現地の状況は悪化の一途をたどっている。


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