2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2019年7月29日

トルコ軍侵攻を警告

 こうした中、トルコの動きが事態をさらに複雑、深刻なものにしている。トルコは最近、イスタンブールに居住していたシリア難民数百人を突然拘束し、強制的にバスに乗せてシリア領内に追放した。その際、難民らには「自発的にシリアに戻る」という文書に署名させたという。追放された難民らは行く場所もなく、国境地帯に放置されている。

 トルコがいま、なぜこうした行動に出たかは不明だが、トルコにはすでに360万人ものシリア難民が滞在しており、国内からエルドアン政権に対し、難民をあまりにも大量に受け入れ過ぎたとの批判が高まり、それが最近の一連の地方選挙での政権側の敗北につながったという見方も出ていた。

 エルドアン大統領はこうした国内の不満を解消する一助とするため、またトルコに難民を押し付けている欧米への反発を示す狙いがあったと見られている。トルコは米国との間で現在、シリア北部に安全保障地帯を設置する交渉を行っているが、うまく進んでいない。

 シリア北部は、米国の先兵として過激派組織「イスラム国」(IS)壊滅に血を流したクルド人が支配しているが、クルド人の勢力拡大を自国の脅威とみなすトルコにとってはこの問題で対立が解けていない。米国は基本的に同盟国であり、北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコの要求に応じ、安全保障地帯の設置については認める意向だ。

 だが、条件としてトルコがクルド人を攻撃しないことを確約するよう求めており、決着が付いていない。この背景には、トルコが7月、米国の反対を押し切ってロシア製地対空ミサイルシステムS400の導入を開始し、これに反発した米国が最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除、100機の売却も凍結するなど、ギクシャクした両国関係がある。

 チャブシオール外相はこのほど、安全保障地帯が設置されず、トルコに対する脅威が消えないなら、トルコはシリア北部に軍を侵攻させると強く警告した。トルコが侵攻すれば、クルド人との戦闘が勃発し、内戦がさらに複雑な状況になりかねない。

 この3月、シリア東部の小村に立てこもって抵抗していた最後のメンバーが制圧され、消滅したとされていたIS勢力が早くも蘇る兆しを見せているのもシリア情勢に影を落としている。米紙によると、残党勢力約1000人がシリアからイラクに越境し、テロなどの活動を活発化させ始めているという。シリアに平和が到来するにはなお、気の遠くなるような時が必要だ。

  
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