2024年12月22日(日)

この熱き人々

2019年9月25日

 「わかりやすくシンプル化していくことや、いろいろなものをコンパクト化していくことは、日本の文化そのものともいえるんじゃないでしょうか。歩きながら聴くことを可能にした携帯音楽プレイヤーや、階段の下を収納スペースにする階段箪笥、ふすまで仕切って部屋の広さや用途を自在に変えるなど、フレキシビリティーとシンプリシティー、それにハイブリッドは、日本が得意とするところですから」

 例えば、64年版と一見似ているように見える陸上競技では、スタートダッシュの選手の体の傾斜が35度から45度に変わっていて、よりスピード感と緊迫感が伝わってくる。そういえば、今回のピクトグラムでは選手の胴体が白く抜けている。

 「64年版も抜いているように見えたんですが、よく見ると白いランニングシャツだったんです。試行錯誤の過程で、胴体を抜いたほうが身体の動きが強調されてダイナミックさを表現できるという発見があったわけです。本質に深くコミットすることで、アナログだけれどプリミティブなコミュニケーションが可能になります」

 グラフィックデザイナー廣村正彰の名前を知らない人でも、町中や建物の中や駅や看板などで、実は廣村の仕事に接しているはずである。例えば横須賀美術館。三浦半島の突端に位置するこの美術館では、階段やトイレや図書室などを廣村のサインデザインが案内してくれる。この先に何があるか、この場所はどんな場所なのかを、「よこすかくん」と愛称がつくほど来館者に親しまれているシンプルな人形(ひとがた)が教えてくれる。今は、建物とサインデザインが融合して、空間や場の魅力を増していく時代になっているのである。

来館者を楽しませる横須賀美術館の表示 近藤泰夫(hue inc.)=写真

 「デザインがアートと違うのは、目的が存在してその目的に応じて提案していくというところだと思います。情報の伝え方を膨らませていくことで、人の気持ちを楽しくさせたりほっとさせたりできる。それがデザインの力ではないかな。劇場やコンサートホールなら、芝居や音楽を楽しむためにゆったりした気分になれるピクトグラムで席まで誘導できたらいいですよね。一方、駅や空港などではそんな悠長なことを言ってられないから、わかりやすく早く誘導できるピクトグラムが求められるわけです」

すみだ水族館のエントランス。エッチングのような描画が浮かび上がり海中に誘われるよう 中道 淳=写真

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