買い付けの交渉をしに畑を訪れた。ボドヴェルシッチ氏のワイン造りは、ブドウ栽培から徹底していた。果実の中の種が完熟しないと収穫しないのだ。もう樹から果実がこぼれ落ちるその間際に収穫する。天候が荒れればいっぺんにブドウをダメにしかねない。そんなリスクを負って最高の状態のブドウからワインを造ろうとしていた。
今でも日本の輸入業者の紹介には「畑での仕事量こそが、ワインの根幹を成す」という彼の言葉が載っている。それほど真剣にブドウ作りに向き合っている生産者だ。
話を持ち掛けると、1日違いで別の輸入業者との契約が成立していた。佐々木氏はボドヴェルシッチ氏のワインとの出会いがどれだけ感動的だったかを語り、機会があれば買い付けたいと伝えて帰る。それから7~8年後のこと。「お前とやりたい」と連絡が入る。
初め無名に近かったボドヴェルシッチ氏のワインは今や、誰もが欲しがるワインになり、東京の酒販店でも人気商品になった。
本物を扱いたい
佐々木さんは初めからイタリアに移住するつもりだったわけではない。1965年、東京・八王子で生まれた。学校を卒業後アパレル会社に入ったが、担当していた海外ブランドの契約が切れたのを機に退職、ニュージーランドへワーキングホリデー(WH)に出る。いずれ海外に住みたいという夢はこの頃芽生えた。WHが終わった後も働いたが、将来展望が描けずに帰国、建設業で設計の仕事に就く。その間、休みを利用しては海外を訪ねた。
そんな時、イタリアに出会う。趣味のスキーが楽しめる場所で、食べ物が美味しい国。もともとイタリアワインも大好きだった。97年、シエナ大学でイタリア語を勉強、翌年からローマのJTBで働き始めた。日本からやってくる取材者の調整やアテンドなどが仕事だった。そんな中で、イタリアの逸品を日本に紹介する仕事に傾斜していく。2002年、友人らと会社を立ち上げたのだ。
佐々木さんは、イタリアの生産者たちの「思い」にハマっていく。とにかく「自然」を大事にし、安全な栽培を目指す農家。そうして作られた作物は味わい深い。ブドウばかりでなく、季節の野菜はとにかく美味しい。貿易会社として販売数量の拡大を狙うのではなく、自分の考えに合った「本物」だけを取り扱いたい。12年に佐々木さんは自分ひとりで「アニマ」を設立した。