実は、現在改装中の農家の建物を使って、もうひとつ実現させたいことがある。アグリツーリズモを始める計画なのだ。農業と観光を合わせたアグリツーリズモは、欧州で人気の旅行スタイルで、農家で1週間から2週間の長期滞在をする体験型のバカンス。農家での収穫体験や加工品の製造、近隣のサイクリングやハイキングなどを楽しむ。プールが備えられているところもあり、のんびり日光浴や読書をする。
ピエモンテでもアグリツーリズモは盛んだ。グルメの佐々木さんが食事に通う農家のレストランは、どこも絶品ぞろいだ。自分の畑で収穫した野菜をふんだんに使い、地域の豚肉や加工品を使った料理を出す。もちろん、ワインはピエモンテ産だ。
佐々木さんのアグリツーリズモでも、自然な自家製ワインに加えて、地域の食材を使ったピエモンテ料理を出すほか、日本食もウリにしたいという。「日本からの長期滞在客や、イタリアの旅行者が集まる文化交流拠点にしたい」というのが佐々木さんの夢だ。
改築中の建物は今年1月に作業が始まったが、「イタリアでは2年かかるか3年かかるか分からないと言われる」と佐々木さんは笑う。オープン時期を決めて焦ることはしない。もっとも、予想以上のペースで工事が進んでおり、20年の夏にはアグリツーリズモが開業できるかもしれないという。
「アグリツーリズモまで実現できそうなのは、妻に背中を押されたおかげです」と佐々木さん。宮崎を拠点に地域おこしを手掛ける宮田理恵さんと昨年、再婚。それを機にプロジェクトが一気に進んだ。
アグリツーリズモや、加工品の製造などいわゆる「六次産業化」を行うための法人「Azienda Agricola Lieto(アズィエンダ・アグリコラ・リエート)」を立ち上げて、ピエモンテ州に税制優遇のある「農業法人」の設立を申請・認可された。法人の代表は妻の理恵さんだ。
イタリアの逸品という「モノ」を日本に輸出することで両国の架け橋になってきた佐々木さん。今度は体験という「コト」を通じて、人と人を結び付ける。国境を超えた挑戦が新たな価値を生み出すことになりそうだ。
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