2024年11月21日(木)

VALUE MAKER

2019年7月27日

 漆器といえば、お正月やお祝い事など、特別な時に使われる芸術品のような食器という意識が強い。黒光りする漆(うるし)の表面に金や銀の蒔絵(まきえ)が施された椀や重箱を、普段の食事に使うのは「もったいない」という人も多いだろう。ましてやキャンプなどアウトドアに持って出るなんて「とんでもない」というのが、常識に違いない。

【関昌邦(せきまさくに)】
1967年生まれ。子どものころから宇宙の仕事に憧れ、大学卒業後は宇宙関連企業に就職。その後、宇宙開発事業団(現JAXAの前身)で働く夢も叶ったが、2003年に生まれ故郷である会津に戻り、07年に父親の跡を継いで関美工堂の社長となる。今年10月には、「NODATE」のユーザーが集う「NODATE Camp 2018」を開催した。写真左は、妻の関千尋さん。(写真・湯澤 毅、以下同)

 「だから漆器が生活から消えていくんです」と、福島県会津若松のセレクトショップ「美工堂」代表、関昌邦さんは言う。漆器に対する世の中の「常識」に歯向かい、「アウトドア用の漆器」を世に送り出した人物である。

 会津若松は「会津塗」で知られる漆器の一大産地で、400年以上の歴史を持つ。ところが、会津漆器の産業規模は今や最盛期の7分の1。それも全体の話で、木から椀などを削り出す木地作りの仕事は13分の1、漆を塗る仕事に至っては32分の1になっている。「特別な時に使うもの」という意識が、消費者だけでなく、生産者の頭にもこびりついた結果、日頃の生活からすっかり漆器が遊離し、一部の和趣味や富裕層が買う嗜好品になってしまった、というのだ。

 「もともと漆は縄文時代から使われていたようで、漆を塗った器に入れた食物は腐敗が遅いなど、古代人は生活の知恵として知っていたのではないか」と関さん。漆器は普段使いの生活必需品として長年使われてきたというのだ。江戸時代までは飯椀といえば漆器だったが、今や会津でも家で漆器を使う人はほとんどいない。

 関さんは「原点に帰って」素材、機能としての漆の意味を考え、カジュアルな生活道具だった漆器に戻そうと考えた。それが漆器の復権につながるのではないかと思ったからだという。

 関さんが真っ先に生み出したのが、「NODATE Mug(のだてマグ)」。アウトドアで気軽に使える木製のマグカップだ。木を削り出した筒型の木地に漆を塗り、すぐに拭き取り乾きを待ち、これを繰り返す。漆の下から木目が浮き上がり独特の風合いが出る。さらに器の腰の部分に穴を開け、ヘラジカの革紐(かわひも)を通した。使った後、紐を引っ掛けて乾かすことができる仕掛けだ。漆器の新機軸とも言える商品が出来上がった。


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