自分が欲しいカジュアルなアウトドア用食器をプロデュース
「フェスイベントが好きでキャンプに出かけていたのですが、自然の中に行くのに、食器はプラスチックや金属製というのが気になっていました。何とか食器だけでも自然のもの揃(そろ)をえられないかと探したのですが無くて、自分で作ることにしたのです」
まずは自分が欲しいカジュアルなアウトドア用食器をプロデュースしよう、そう関さんは思い立った。2010年のことだ。実は、漆は熱にも強く、強酸にも強アルカリにも耐える。木を削って作る漆器は丈夫で軽い。アウトドアにもってこいの素材なのだ。このマグカップ漆器が大ヒットする。キャンプ好きの大人たちの間で、人気アイテムになったのだ。
お茶も点(た)てられ飯椀にもなるやや大ぶりの「NODATE one(のだて椀)」や、エスプレッソにぴったりの小型マグ「NODATE mug tanagocoro(のだてマグたなごころ)」、そしてアクセサリーを兼ねるお猪口(ちょこ)まで、ラインナップを増やしていった。大皿、小皿、箸もある。どれも革紐が付いていて、リュックサックやテントのフックにも引っ掛けられる。この革紐がアクセントになってアウトドア感を引き立てている。
made in Aizu, Japan
「NODATE」というブランド名を付けたのは奥さんの関千尋さんだった。「茶道に出合った頃から野点(のだて)という日本語の表現が美しいなとずっと思っていた」という。アウトドアでお茶を一服という器に、ぴったりのネーミングだ。関さんは奥さんこそが影のプロデューサーだと笑う。
問題は価格だった。高級品として売ってきた漆器は高額だ。これをどこまで安くできるか。「理にかなうプライシング」にすることを考えた。職人にもきちんとした報酬を払うが、買う人にも「高いけど欲しい」と思わせる値段にする。何層にも塗り重ねる一般的な艶塗りではなく、最もカジュアルな「拭き漆(摺り漆)」にすることで価格を抑えた。もちろん、それも会津に伝わる伝統的な塗り技法のひとつだ。マグ1つが5500円という価格は、安くはないがべら棒に高くもない。その価格設定もヒットした理由だろう。
カジュアルとはいえ、「本物の技術」にはこだわり続けている。生活の中に漆器を取り戻すことで、木地作りから漆塗り、蒔絵、といった会津に残る漆器作りの伝統技法を残すことができる。それが「NODATE」漆器を生んだ大きな理由だからだ。器の裏などには「made in Aizu, Japan(メイド・イン・会津・ジャパン)」と刻み、会津産であることを強烈にアピールしている。それは会津の伝統への「誇り」でもあり、会津を守らなければという「焦り」の表れでもあるように見える。