4年前、気候変動によるコスト増は3億~4億ユーロと公表した英蘭一般消費財メーカー・ユニリーバは、世界のビジネスリーダーに温暖化対策に取り組むよう呼びかけ、いち早くTCFDに賛同。英国での売れ筋ブランドのマーマイト(ビールの酵母を使った食品)やポット・ヌードル(カップ麺)も「当社の持続可能目標を満たさなければ売却する」と述べ、消費者を驚かせた。TCFDはバリューチェーンにも連鎖的な影響を及ぼし始めている。
企業はTCFDの提言に基づき、こうした変化と対応を年次報告書で開示し始めている。
ブリティッシュ・エアウェイズなど航空会社4社を傘下に収めるIAGは18年の年次報告書に今後5年間で燃料効率を向上させるソフトウェアに100万ユーロを投じ、20年間で持続可能な航空燃料インフラを開発するために4億ドル以上をつぎ込むと明記した。
気温上昇2度と4度のシナリオをもとに今と同じ企業活動を継続した場合のリスクを予測。4度シナリオでは、炭素価格の負担増などの運航コストに加え、異常気象による欠航や遅延などの損害がかさむという。これを受け、燃料効率と低炭素テクノロジーの開発プログラムを加速させたと報告し、今年は1・5度シナリオも考慮し、50年までに脱炭素化すると宣言した。
一方、石油・天然ガスで商売するエネルギー会社BPは厳しい立場に追い込まれている。EUは30年に1990年比で温室効果ガスの排出量を40%削減、2050年には80~95%削減を目指す。世界中の機関投資家はBPの次の一手に注目する。
BPの最高経営責任者ダッドリー氏に「TCFDにどう対応するつもりか」と尋ねてみた。
「TCFDの原則には95%賛成するが、詳細の一つに大きな疑問が残るため同意していない。どのシナリオに基づき、どうリスクを算定するか、これがどのように機能するのか、まだわれわれには分からない。ある行為から多数が同じような被害を受けた時、一部の被害者が全体を代表して訴えることができる米国のクラスアクション(集団訴訟)の怖さを10年のメキシコ湾原油流出事故を通じて思い知らされた。どういうシナリオでリスクをどう見積もるか慎重に対応したい」と答えた。
BPは温室効果ガスの排出率が低い天然ガスに望みをつなぐが、低炭素化への取り組みが遅れると致命傷になりかねない。
イングランド銀行幹部は「嵐を避けよ」と題した講演で「どこに潜んでいるか分からない危険を察知するため、より多くのデータと情報開示、さらに優れた分析ツール、進んだシナリオ分析、新しいリスク管理テクニックが必要だ。頼りにできる航路は存在しない。だから基本の基本から始めよう」と呼びかけた。