資源に進出する中国と出遅れた米国
昨年1月中国政府が発行した「北極圏白書」の中にはグリーンランドは登場しないが、関係国と協力し、海路「北極シルクロード」を開発するとの表現が出てくる。中国は北極圏の開発への強い関心を明らかにしているが、中国がグリーンランドの鉱物資源に関心を持ったのは、グリーンランドの自治権が拡大され、リーマンショックから資源価格が回復し始めた10年前だ。
リーマンショックの影響を受け低迷していた原油を初め多くの鉱物資源の価格は、2010年から上昇に転じ2011年には高騰した。例えば、グリーンランドに賦存するとされる鉄鉱石価格は2倍以上、銅価格は3倍以上になった。資源価格の上昇を見た中国地質調査局は、2011年からグリーンランドで資源の調査を開始する。
中国民間企業も資源開発に関心を示し、鉄鉱石鉱山開発に20億ドル以上の資金提供の意向を示す企業も登場した。しかし、2011年をピークに資源価格が下落を初め、中国企業による開発は中断したままだ。
一方、レア・アースの開発を手掛ける中国企業が登場した。国土資源部が最大株主の盛和資源が、世界最大級とされるレア・アースとウラン鉱山の開発を手掛けるグリーンランド・ミネラルズ・アンド・エナジーに2016年資本参加したが、生産開始時には盛和が主導権を取る覚書が締結済みと発表されている。さらに、国営企業CNNC(中国核工业集团公司)も事業に参画することが今年1月発表された。
非鉄金属の開発企業、国営のチャイナ・ノンフェラス・メタル(中国有色矿业集团有限公司)も豪州企業と共に鉄鉱石と亜鉛鉱山の開発に関与しており、開発開始時には中国から労働者を動員する計画と言われている。自然条件、インフラの問題からグリーンランドの採掘コストは高いと見られているが、鉱山によっては、厳しい自然条件と労働力の問題を考えても適切なリターンが得られる案件が登場してきているようだ。
中国は武器製造など幅広い分野で使用されるレアアース世界シェアの80%以上を握っているとされ、米中貿易戦争の報復としてレア・アースの輸出を制限する可能性があるのではとも報道されている。さらに、世界最大級とされるグリーンランドのレア・アース資源を中国が握ることになれば、米国のみならず日本も欧州も影響を受ける可能性がある。
グリーンランドは、デンマークからの独立を果たすため中国からの資源開発資金と観光客に期待している。キールセン首相自身が観光客誘致の使節団を率いて訪中するほど力を入れている。英「エコノミスト」誌は、グリーンランドは旧宗主国から離れ、結果他の国への従属に悩むことになるかもしれないと昨年指摘している。
米国はチャイナ・マネーに対抗できるのだろうか。グリーンランドの自立に米国が寄与するため、たとえば、民間企業による投資を支援する政策、さらにグリーンランドの経済と雇用に役立つ開発・資金計画を、まず示すことが必要だろう。
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