田部康喜のTV読本

2019年9月26日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 2019年ラグビーW杯が9月20日に開幕して列島に熱狂が広がっている。NHKスペシャルはこの大会をきっかけとして、ラグビーの魅力をシリーズで取り上げようとしている。第1回「“世界最強”神髄に迫る」(22日)は、史上初の3連覇に挑戦する、ニュージーランドのオールブラックスと、ライバルのオーストラリアチームを中心にすえて、最強チームの強さを掘り下げた。

Matrosovv / gettyimages

 前回大会で、世界ランキング3位の南アフリカを破って「史上最大の番狂わせ」をもぎ取った日本は、今大会で予選リーグを勝ち上がってベスト8の期待がかかる。これまでのオリンピック・パラリンピックやサッカーW杯の報道を顧みれば、日本の勝ち負けにこだわるあまり、歓喜と落胆ばかりが目立ったのではなかったか。

 競技自体のルールや基本的な技術、競技が持っている精神について、ていねいに報道した番組は少なかったように思える。その意味では、今回のNスペのシリーズは異彩を放っている。

 ラグビーは、試合が終了する「ノーサイド」となると、対戦チームがそれぞれをたたえ合う。互いに握手を交わす。「リスペクト」の精神が根底に横たわっている。発祥の地であるイングランドで、紳士のスポーツあるいは、かつては上流階級のスポーツといわれた由縁である。

 番組のなかで、前大会で正確なキックの成功率を誇った、五郎丸歩が南アフリカを破った直後のことを振り返った。

 「南アフリカは、負けたのに彼らのほうから(日本チームに)歩み寄ってきて、勝利を讃えてくれた。はしゃぎ合っていた我々は、恥ずかしかった」

 今大会の報道では、前回大会の対南アフリカ戦の最後の劇的なトライが、繰り返し映像となって流れている。勝利後のシーンで、もうひとつのドラマがあったのである。

 シリーズ第1回において、世界最強のチームの神髄に迫った武器は、ラグビー場にすえた最新鋭のカメラ100台による「自由視点映像」の力である。通常の中継映像ではとらえきれない、3Dによる360度の映像は、さまざまな角度から選手の動きや視線などについて、映像を止めたり、巻き戻したり、進めることによって分析している。

 優勝候補の筆頭にあげられる、オールブラックスは「変幻自在の攻撃」でライバルを撃破してきた。変幻自在とは、キックからもパスワークからもトライにつなげることができる。それも瞬時のキックとパスワークを変えてくる。

 チームの司令塔である、スタンドオフのボーデン・バレットのインタビューに1年越しでこぎつけた質問者が「どのようにして変幻自在な攻撃ができるのか」とたずねた瞬間に、立ち会っていたスタッフが「戦術にかかわることなので答えられない」という。

 バレット自身もユーモアたっぷりに次のように答えるのだった。

 「いい質問ですね。でも(質問に答えたら)W杯に出られなくなります」

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