2024年12月4日(水)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年10月25日

 今回のテーマは「トランプが陰謀論にこだわる理由」です。ドナルド・トランプ米大統領は自己に対する否定的なイメージを変えて、来年の大統領選挙で有利に戦うために、ある「陰謀論」に固執しています。そこで本稿では、トランプ大統領が陰謀論にこだわる理由を中心に述べます。

23日、ペンシルベニア州ピッツバーグで行われたシェールガス、オイル産業のカンファレンスに参加したトランプ大統領(AP/AFLO)

トランプの2つの矛盾点

 トランプ大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけて野党民主党の有力候補ジョー・バイデン前副大統領と次男ハンター氏に関する汚職捜査を要請した疑惑、いわゆる「ウクライナ疑惑」に関して、トランプ氏には少なくとも2つの矛盾点があります。

 まず1つ目の矛盾点です。トランプ大統領はウクライナへの軍事支援を一旦保留した理由として同国における汚職問題を挙げました。ウクライナでは汚職が蔓延しているので、3億9100万ドル(約424億円)の軍事支援を「浪費したくなかった」と言うのです。それにもかかわらず、トランプ氏は汚職撲滅の立場をとっていたヨバノビッチ駐ウクライナ大使を5月に突然解任しました。

 次に2つ目の矛盾点です。ミック・マルバニー米大統領首席補佐官代行は17日、ホワイトハウス記者団に対して、ウクライナにあると噂されている民主党全国委員会(DNC)のコンピューター・サーバーの調査を要請するために、同国に対する軍事支援を保留したと述べました。ウクライナ政府が民主党全国委員会のサーバーに関する調査を実施すれば、見返りとして軍事支援を行うという意味になります。

 マルバニー氏はこれについて「外交政策ではよくあることだ」と語り、軍事支援を見返りとしたことを正当化しました。確かに、外交交渉では当事国間で交換条件としての見返りの提示があるのかもしれません。

 しかし、トランプ大統領はこれまでゼレンスキー大統領との間に見返りはなかったと断言してきました。トランプ・マルバニー両氏の主張は明らかに矛盾しています。

マルバニーの本音

 いずれにしても、トランプ大統領は米議会が承認したウクライナへの軍事支援をレバリッジ(てこの力)にして、民主党全国委員会のサーバーに関する調査の実施を要請をしました。もちろん、軍事支援は米国民の税金です。

 トランプ大統領は民主党に打撃を与える情報収集の目的で、ウクライナに交換条件を出したとみるのが自然です。仮にそうであるならば、再選を狙うトランプ氏は個人の利益を、国益に優先させたといえます。

 さて、マルバニー大統領首席補佐官代行は、見返りを認めた発言を即座に撤回してダメージコントロールをしました。バイデン前副大統領は、息子のハンター氏を調査していたウクライナの検事総長を解任しないと、同国への軍事支援を削減すると迫ったと反論しました。その上で、「これこそ見返りだ」と語気を強めて語りました。この検事総長を解任すれば、その見返りとしてウクライナへの軍事支援を削らないと圧力をかけたと解釈できるからです。

 これに関してバイデン氏は、汚職問題を抱えている検事総長を解任しようとしたのであって、息子とは無関係だと主張しています。

 マルバニー大統領首席補佐官代行は、トランプ大統領の本音を漏らしました。保守系の米FOX ニュースのキャスターが、番組の中でマルバニー氏に対して、トランプ大統領が解任を命じなかったのかと質問しました。マルバニー氏は否定しましたが、このキャスターも同氏がトランプ氏の本音を明かしてしまったとみていたのでしょう。


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