今回のテーマは「中国を巻き込んだトランプの『ウクライナ疑惑』」です。ウクライナに加えてドナルド・トランプ米大統領は、中国に対しても民主党候補指名争いを戦っているジョー・バイデン前副大統領及び次男ハンター氏に関する捜査を開始するように訴えました。そこで本稿では、トランプ大統領が中国を巻き込んだ狙いと、民主党主導の弾劾調査に対する同大統領の対策を中心に述べます。
中国に対する新たな揺さぶり
トランプ大統領はホワイトハウス記者団に「中国はバイデン親子に対する捜査を開始するべきだ。ウクライナで起こったことと同じぐらい中国で起こったことは悪質だからだ」と主張して、貿易戦争の相手国である中国に揺さぶりをかけました。同大統領は「息子(ハンター・バイデン氏)は中国から15億ドル(約1600億円)を受け取った」と、何の証拠も示さずに言うのです。
中国はハンター氏を通じて父親のバイデン副大統領(当時)に影響を与えた結果、米国との通商で有利な取引ができるようになり、「我々の国(米国)を食い物にしてきた」というのがトランプ大統領の見解です。この見解には選挙メッセージが含まれています。
というのは、反中国感情が強い熱狂的なトランプ支持者に対して「中国とバイデン親子が結託して、対中貿易赤字を増やし、米国の雇用を潰した」というメッセージを発信しているからです。その狙いは、対中貿易赤字の責任がバイデン親子にあり、「愛国心のない親子」という認識をトランプ支持者に持たせることです。
バイデン前副大統領はトランプ大統領の敵対的な対中政策を批判し、「米国は中国と協力するべきである」と反論しているだけに、同大統領の「中国とバイデン親子の結託」のメッセージは支持者にとって説得力があります。
中国はトランプの要求に応じるのか?
米中貿易戦争が激しくなる状況において、中国は果たしてトランプ大統領のバイデン親子に関する調査の要求に応じるのでしょうか。同大統領は、「我々は中国に関して多くの選択肢を持っている。もし我々が望んでいることを(中国が)やらなければ、我々には巨大な力がある」と脅して、バイデン親子に関する調査を行うように中国に圧力をかけました。今、ボールは中国にあります。
しかし、中国はトランプ大統領の要求に応じる公算は低いかもしれません。というのは第1に、「内政不干渉」を重視する中国の政策に反するからです。第2に、要求に応じた場合、習近平国家主席は国内外から「弱いリーダー」としてみられるリスクが高いからです。第3に、中国はトランプ大統領よりもバイデン氏の方が組し易い相手であるからです。
そうはいっても、経済成長率が低迷している中国が貿易交渉で譲歩を引き出そうと、トランプ大統領にバイデン親子に関する情報提供を行う可能性は完全に否定できません。