2024年12月23日(月)

田部康喜のTV読本

2019年11月21日

(Vlady9 / gettyimages)

 BSプレミアム「歪んだ波紋」(毎週日曜午後10時)は、フェイク・ニュースの作り方を指南するダークサイトをめぐる、上質なミステリーである。原作は神戸新聞出身の作家・塩田武士の短編集。ドラマは、新聞社の裏側と新聞記者の苦悩を、丹念に描いた傑作といえるだろう。

 新神奈川日報(新神奈川)の文化部の記者だった、沢村政彦(松田龍平)は報道部の調査報道チームの一員に引き上げられて、友軍記者として働いている。チームは、デスクの中島有一郎(勝村政信)と、大手新聞・大日から転職してきた桐野弘(筒井道雄)との3人である。沢村(松田)の父・一平(角野卓造)も、全国紙の大日の社会部長を務めながら急死した記者だった。

 チームのデスク・中島はかつて、地元大学病院の治療ミス事件の特ダネの成果をあげてきたが、最近は大きなネタに恵まれず、社内的に追い込まれていた。起死回生策として狙ったひとつは、地元の市長選にテレビのコンメンテーターをしている、コンサルタントが出馬するネタだった。ふたつ目は、乗用車のひき逃げ事件で夫が死んだ、妻の森本敦子(小芝風花)が実は容疑者ではないかという疑惑だった。

 ひき逃げ事件は、沢村(松田)に任された。新神奈川の報道を読んだ読者が容疑者の黒色のバンの写真を送ってきて、チームの桐野(筒井)が「写真の出どころは大丈夫だ」というのだった。疑惑の対象である、被害者の妻の敦子(小芝)にインタビューした、沢村は決定的な証言を得ることはできなかった。

 しかし、デスクの中島(勝村)と桐野(筒井)は、沢村が隠し撮りした録音を聞いたうえで、敦子を犯人と断定しないで疑惑として、記事にすることを決断する。

 息子のサッカーの試合を観たついでに、近くに住む神奈川県警中央署の副署長の井岡公昭(山口馬木也)を沢村は訪ねて、ひき逃げ事件についてたずねた。犯人のバンの色についても、答えない井岡は、沢村の去り際にポケットから懐中時計を取り出して、裏側を指で示すのだった。色がシルバー、だという意味である。敦子(小芝)に対する疑惑報道は、「虚報」だった。

 デスクの中島(勝村)と桐野(筒井)は、懲戒解雇になった。沢村は3日間の休職処分だった。「どうして僕にあんな記事を書かせたんです」と、中島に詰めよると「フェイク・ニュースの作り方を教える、サイトを参考にしたんだ」と答えた。

 沢村が挑むことになる、検索エンジンでは引っかからない、ダークサイトである「メイク・ニュース」が、ドラマに登場した瞬間である。

 ドラマの冒頭に流れるテロップ――「真実は作られる。人は信じたいものを信じる……」は、この「メイク・ニュース」のサイトのトップ画面に流れる文章だ。


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