赤坂英一の野球丸

2019年12月3日

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 「こうなったら、張り手、かち上げを規則で禁じ手にするしかないんじゃないか」

 好角家のタレントや文化人の間からはとうとうそんな声も上がり始めた。今年最後の本場所、九州場所で43回目の優勝を果たした大横綱・白鵬の立ち合いについて、「あまりにも乱暴」「また悪い癖が出た」「しかも以前よりひどい」と非難が集中しているのだ。

(c11yg/gettyimages)

 白鵬は九州場所15日間の取組のうち、実に10日で張り手、かち上げを多用。とりわけ12日目の遠藤戦が凄まじく、議論を再燃させる火種となった。

 この一戦、白鵬が立ち合いでまず左から頬を張ると、間髪入れず右のかち上げ、というより肘打ちを食らわせ、遠藤が鼻から出血。白鵬はさらにダメ押しするように左右の張り手で頬をひっぱたき、最後には遠藤をはたき込んで完勝である。

 総合格闘技まがいの過激な打撃技の連発に、NHK解説者の舞の海秀平氏は、「過去の横綱はこういう立ち合いはしなかった。このかち上げは見ていて後味が悪い」と不快感を示している。

 当然、場所後の横審(横綱審議委員会)でも白鵬がやり玉に挙がった。九州場所の千秋楽から一夜明けた11月25日、両国国技館で開かれた横審の定例会合では、通常の二倍に当たる約30分もの時間を費やし、白鵬の相撲について論議。矢野弘典・横審委員長(産業雇用安定センター会長)はこう苦言を呈した。

 「張り手、かち上げをやり過ぎではないか、横綱の振る舞いとして見苦しいのではないかと、ほとんど全員(の委員=9人)から意見が出た。しっかり指導してほしいと相撲協会に要望した」

 振り返れば、2年前の2017年の九州場所でも、白鵬は15日中10日の取組で立ち合いに張り手、かち上げを連発。当時の北村正任・横審委員長(毎日新聞社名誉顧問)に「横綱相撲とは到底言えない。美しくない、見たくない」と厳しく批判された。

 このときも横審から相撲協会に対し、白鵬に立ち合いを改めさせるよう「工夫、努力をしてほしい」との要望が出されている。そうした〝外圧〟を受け、白鵬も今年の序盤までは張り手、かち上げを自粛していた。それが、徐々にまた以前のような荒々しい取り口が目立ち始め、出稽古で相手を〝KO〟することも珍しくなくなった。

 7月の名古屋場所前には、5月の夏場所で初優勝したばかりだった朝乃山と三番稽古を行い、右の張り手一発で土俵に這わせている。このときは朝乃山が脳震盪を起こしたために稽古は打ち切り。9月の九州場所前にも進境著しい友風を三番稽古の相手に指名すると、パワー十分の張り手でたたきのめした。

 そんな白鵬の張り手、かち上げについて、「年齢による力の衰えをカバーし、なりふり構わず勝ちにいくための手段」と指摘する声をよく聞く。確かに、そんな苦し紛れの一面があることは否定できない。が、もっと若かったころの白鵬を取材した私は、あの取り口の背景には別の要因があると考えている。

 それは、一口に言えば白鵬独自の相撲観だ。横審、親方衆、日本の大勢のファンには「見苦しい」「美しくない」と映る張り手、かち上げも、白鵬にとっては勝つためには当然の手段なのである。

 現に、また取り口が問題視されている最近も「前からやっていること。勝たないと生き残っていけないでしょう」とコメント。これを開き直り発言のように捉えている人もいるが、白鵬はもっと若いころから同じセリフを繰り返していた。

 私が初めてインタビューした10年前の2009年、白鵬は24歳だった。いまのように張り手やかち上げを使わずとも、相手の相撲を全身で受け止め、土俵際まで押し込まれてからも十分余裕を見せて勝つことができた。にもかかわらず、ときには張り手やかち上げを使っている。なぜかと聞くと、「相撲の技のひとつだからね」と答えて平然としていたものだ。

 白鵬の育ての親、宮城野親方(取材当時は熊ヶ谷親方)によると、張り手は横綱になる前も多用していたという。横綱になってからはなるべく慎むようにと、再三に渡って注意したそうだ。しかし、この相手には勝ちたい、勝って苦手意識を植え付けたい、と強く意識すると、修業時代から身体に染みついた張り手やかち上げが出てしまうらしい。

 こう書くと、白鵬が日本国籍を取得したとはいえ、もともとはモンゴル出身。やはり、日本出身力士とは根本的な相撲観が違うのではないかと思われるかもしれない。

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