今年のセ・リーグ新人王投票、ヤクルト・村上宗隆、阪神・近本光司のどちらに一票を投じるべきか。プロ野球のシーズンが大詰めを迎えた最近、投票資格を持つ記者やアナウンサーとの間で、よくそんな話になる。
村上は2017年秋、ドラフト1位で九州学院からヤクルト入りした2年目の長距離砲だ。打率こそ2割台前半ながら、30本塁打、90打点を上回る長打力と勝負強さを発揮。西武・清原和博が1年目の1986年にマークした31本塁打を超えたばかりか、西鉄(現西武)・中西太が53年に残した高卒2年目以内最多本塁打記録36をも凌駕する勢いでファンを沸かせた。
2年目でも新人王に選ばれることが可能なのか、と疑問に思われる向きもあるかもしれない。NPB(日本野球機構)では新人王の有資格者をこのように定めている。
海外でのプロ野球経験がなく、初めて支配下登録されてから5年以内、打者は前季終了時の一軍打席数が60打席以内(投手なら前季終了時で一軍登板が30回以内)。村上は1年目の昨季、14打席しか立っていないから、この条件にしっかり合致しているわけだ。
ちなみに、昨季は僅か1安打ながら、その1安打がプロ野球史上64人目の初打席初本塁打。そのときから、「来年はシーズン頭から使えば新人王を狙える」と、ヤクルトやマスコミ関係者の間でもっぱらだった。
しかし、村上よりも1年遅い18年秋、大阪ガスからドラフト1位で阪神に入団した近本も負けてはいない。今季序盤から1番・センターに定着すると、ずば抜けたセンスと俊足好打でヒットを量産。巨人・長嶋茂雄が1958年にマークしたセ・リーグ新人最多安打153を超える新記録まで達成した。さらには盗塁数も30個以上と、トリプルスリー(打率3割・30本塁打・30盗塁以上)史上最多3度のヤクルト・山田哲人ともタイトルを争う韋駄天ぶりである。
そんな記録ずくめの活躍を見せるふたりのうち、いったいどちらが新人王にふさわしいのか。スポーツマスコミでも侃々諤々の議論かまびすしい。今月17日に朝日新聞デジタルに『新人の安打記録か、10代最多本塁打か、セの新人王争い』という記事がアップされたかと思ったら、翌18日はサンケイスポーツも『ヤクルト・村上、阪神・近本 まれに見るハイレベル新人王レース』と、大々的な特集を組んでいる。
念のために改めて書いておくと、新人王はMVPやベストナインとともに、日本新聞協会運動記者クラブに加盟する新聞社・通信社・放送局で5年連続以上の取材経験を持つプロ野球担当の記者が、日本シリーズの開幕までに投票して決められる。投票用紙は毎年、NPBが記者の所属する会社、及び記者個人宛てに郵送。私の場合は、週1本以上の記事を寄稿している「東京スポーツ新聞社・赤坂英一」として投票している。
新人王の欄に記入できる選手の名前はセ・パ両リーグともにひとりだけ。村上、近本のどちらを書き入れるべきなのか、誰にとっても悩ましいところだろう。
個人成績で甲乙つけ難いと、所属チームの勝利や順位に対する貢献度が比較検討の対象となる。近本のいる阪神はシーズン終盤まで広島、中日とAクラス入りとCS(
これに対して、ヤクルトはリーグタイ記録の16連敗などもあって前半戦からBク
そうした状況でひとり全試合にフル出場を続けた村上は、チーム状況や試合展開を意識せず、自分の打撃と成績だけに専念することができた。そのぶん、近本のチームへの貢献度を評価し、村上の個人成績は割り引いて考えるべき、という記者や評論家は少なくない。
例えば、村上が10代本塁打数で〝抜いた〟1986年の清原はどれだけ西武に貢献したか。西武はこの年、森祇晶監督就任1年目にして前年に引き続きパ・リーグ優勝を達成。日本シリーズでもセ・リーグの覇者・広島を相手に1引き分け3連敗から4連勝し、日本一に輝いた。
そうしたチームにあって、清原は高卒1年目でクリーンアップの一角を担い、31本塁打だけでなく、打率3割1厘、78打点という好成績を残したのだ。地味ながら緻密な野球を標榜していた当時の西武らしく、送りバントのサインも出され、犠打4個を記録している。