今年のドラフト会議、高校野球で注目されていた〝ビッグ3〟は、いずれも彼らを最も必要としている球団へ入団することになった。4球団が競合した大船渡・佐々木朗希はロッテが交渉権を獲得。3球団競合の星稜・奥川恭伸はヤクルト、東邦・石川昂弥は中日が当たりクジを引いた。
今季の順位を見ると、ロッテがパ・リーグ4位、ヤクルトがセ・リーグ6位、中日が同5位とそろって下位に低迷。戦力的にも話題作りのためにも、高校野球のスター選手が喉から手が出るほどほしかった球団ばかりだ。3球団ともに熱意をアピールしようと、ドラフト前に佐々木、奥川、石川を1位指名すると、あらかじめ発表までしている。
そんな〝弱者〟が〝ビッグ3〟を獲得し、〝強者〟であるセ・リーグ優勝の巨人が奥川、パ・リーグ優勝の西武が佐々木の抽選に参加して一敗地にまみれたわけだ。ロッテ、ヤクルト、中日のファンもさぞかし溜飲を下げ、快哉を叫んだことだろう。もしこれが〝野球の神様〟の配剤だったら、なかなか粋なことをするものだと思う。
さて、それでは、彼ら1位指名された黄金ルーキーたちは、これから入団するチームの救世主になれるのか。また、3人を獲得した球団は、彼らを立派な中心選手に育て上げることができるのか。
最も育成法と起用法が難しいのは、ロッテが獲得した佐々木だ。セ・リーグ球団のあるスカウトは、「力もスピードもスターとしての雰囲気もあるけど、いかんせんまだ身体ができていない」と指摘する。「来年いきなり一軍で使ったら、すぐ完封ぐらいして見せるかもしれません。しかし、何試合か投げたら身体のどこかを痛めて、1年目はずっと二軍暮らしになる恐れもある」というのだ。
佐々木は今夏の盛岡県大会決勝・花巻東戦で、「故障を防ぐため」とする國保陽平監督の決断によって登板せず。試合にも敗れ、甲子園のマウンドを踏むことはなかった。その後の9月、真価を発揮すると期待されたU-18W杯(18歳以下の高校生ワールドカップ)・韓国戦でも、右手中指に血豆ができたために1イニングだけで降板している。
そもそも、佐々木を一躍ドラフトの目玉に押し上げた〝高校生最速記録〟163㎞にしても、今年4月の日本代表の合宿中、紅白戦で投げた1球を、視察に訪れた中日スカウトのスピードガンだけが計測したもの。全国大会や国際試合の大舞台で投じられた球とは質も意味合いも異なる。これは以前、『「令和の怪物」163㎞報道に見る〝スピードガン症候群〟』(4月24日配信)でも指摘した通り。
それでなくても佐々木が3年間通った大船渡は公立で、星稜や東邦のような私立の強豪校に比べると練習量が段違いに少ない。奥川や石川とは、土台となる身体の強度にも差があるはず。来年は佐々木を一目見ようと石垣島キャンプから大勢のファンと報道陣が詰めかけるだろう。が、井口資仁監督も佐々木本人も、周囲の期待に応えようと焦るこ
一方で、ヤクルトが交渉権を獲得した奥川恭伸には、1年目から先発ローテーションに入るつもりでキャンプに臨んでほしい。私が今年、春の選抜、夏の選手権と、甲子園での2大会を取材した限り、奥川の投球術はそれぐらい完成の域に達している。夏の大会中、甲子園のネット裏で奥川を視察していたスカウトがこう断言していたほどだ。
「奥川だったら、1年目から10勝はできるでしょう。その代わり10敗ぐらいするかもしれないけど、少なくとも1年を通してローテーションを守れると思います。真っ直ぐは150㎞以上出るし、四隅のコーナーを突けるコントロールの良さもある。それに、スライダーを中心とした変化球のキレも抜群。高校時代の完成度で比べれば、駒大苫小牧の田中将大(楽天→ヤンキース)よりも上かもしれません」
気になる点があるとすれば、調子が悪いと指先が球にかからず、真っ直ぐが高めに浮くこと。高校野球ではそれでも抑えられたが、プロの打者には見送られてボールになるか、逆に捉えられてヒットにされるはず。
ただし、この〝欠点〟について奥川本人は「指にかかっていない真っ直ぐには納得していません。そういう球が150㎞出ても仕方がない」と甲子園で語っていた。このように、自分の投球を常に冷静に分析できるクレバーな頭脳もプロ向きと言える。こういうタイプは、楽天時代の田中のように1年目から一軍で経験を積むべきだろう。