Washington Files

2019年12月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 連邦議会とホワイトハウスが真っ向から対立する厄介な二つの問題めぐり、最高裁が厳しい局面に立たされている。その最終判断次第では、トランプ大統領の政治生命をも脅かしかねず、米国民の関心も高まりつつある。

 一つ目の案件は、トランプ大統領がこれまで頑固に公表を拒み続けてきた自身の納税申告など財務関連書類についての裁判所提出命令をめぐるものだ。

 そして二つ目は、ロシア疑惑に関連し、同大統領側近の証人喚問を求める議会調査委員会側とこれに応じないホワイトハウスとの真っ向からの対立についてであり、いずれも、「三権分立」の下、立法府と行政府の相異なる主張を反映している。

(Bill Chizek/gettyimages)

 大統領の納税申告内容については、あくまで個人の問題であり、公表義務はないものの、過去歴代大統領はいずれも就任の際に、率先して詳細を公開してきた。これに対し、トランプ氏は就任前そして就任後も、マスコミの度重なる要求にもかかわらず拒み続けてきた。

 しかし、民主党が多数を制する下院「監視改革委員会oversight and reform committee」は今年3月以来、トランプ大統領の側近で顧問弁護士(後に解任)だったマイケル・コーエン氏らの証言などを下に、大統領就任前からのトランプ氏の事業内容をめぐる不正疑惑解明に乗り出し、大統領の専任会計事務所「Mazars USA」に対し、財務関連書類の提出を要求してきた。

 これを受け、ワシントン連邦控訴裁は去る11月13日、「下院当該委員会の要求は下院規則および憲法に基づき正当」として、会計事務所に改めて過去8年間分のトランプ氏財務関連書類提出を命じた。ホワイトハウス弁護団はただちに上訴、最高裁は同月25日、提出命令の「一時差し止め」を認めるとともに、近く提出予定の弁護側の「反論書」を精査した上で、今後の対応を検討することにしている。今のところ、議会への関係書類提出の是非をめぐる結論は最終的に、最高裁審理に持ち込まれる公算が大きい。 

 トランプ氏の税務処理問題については別途、元ポルノ女優とのスキャンダルもみ消し事件を審理中のニューヨーク・マンハッタン連邦地検が、もみ消し代金の出所解明を理由に、同氏の納税申告および事業内容を示す財務関連書類の提出を求めており、こちらも地裁が裁可したため、ホワイトハウスは上訴中だ。

ロシア疑惑解明のため不可欠な人物

 トランプ・ホワイトハウスを悩ますもう一つの懸案が、ドナルド・マクギャーン前大統領顧問の議会喚問問題だ。

 マクギャーン氏は2017年1月、トランプ大統領就任式以来、昨年10月辞任までホワイトハウス顧問として法律問題の中心的役割を担ってきた。この間、ロシア疑惑を内偵していたジェームズ・コミーFBI長官(当時)やヒラリー・クリントン元国務長官の刑事告発を大統領から指示されたものの、「権力濫用」に問われるとして異議を唱えるなど、立場の違いが明白となり、辞任に追い込まれたいきさつがある。

 その後、下院司法委員会は、ロシア疑惑解明のため同氏の証言が不可欠として委員会への証人喚問を求めてきたが、ホワイトハウス側がこれを執拗に拒否し続けたため、今年8月、ワシントン連邦地裁に告発していた。

 そして同地裁は11月25日、マギャーン氏に対し議会喚問に応じるよう命じたものの、ホワイトハウス側はただちに控訴。同控訴審は来る1月3日までに結論を出すことになっており、もし、地裁決定が支持された場合、最高裁への上訴は確実視されている。

 ホアイトハウスとしては控訴審で敗訴した場合、ロシア疑惑のみならずウクライナ疑惑を解明中の下院情報活動委員会において、関与が伝えられるマルバニー首席補佐官代行、ポンペオ国務長官ら要人もあいついで議会喚問に応じざるをえなくなるだけに、徹底抗戦の構えを崩していない。

 最高裁にとって上記2件の案件が厄介なのは、いずれも「三権分立」を明記した憲法規定の根本に関わるからにほかならない。すなわち、国民の「知る権利」をタテに納税関係書類提出と重要参考人の喚問を求める「立法府」」と、在任中の大統領およびホワイトハウス高官は刑事訴訟の対象外と主張する「行政府」のどちらを優先させるかという難題だ。

 現在の最高裁は、トランプ政権が指名したゴーサッチ、キャバノー両氏が新たに加わったことにより共和党系5人、民主党系4人の9人の判事で構成されている。このため、審理にあたり判事全員が党派にこだわった場合は、最終判決では共和党が有利になる。

 しかし「司法」は本来、できるかぎりどちらの主義、主張にもくみしない中立的立場に立った審理を求められているだけに、必ずしも判事全員が所属政党に沿った判断を下すとは限らない。

 たとえば、1974年、ウォーターゲート事件に関連して大陪審がニクソン共和党大統領(当時)に証拠物件提出を求めた最高裁判決では、共和党系判事含め全員一致で大陪審の主張を認めた。1997年、クリントン民主党大統領(当時)のセックススキャンダル民事訴訟をめぐる最高裁審理の際にも、民主党系判事含め全員一致で女性側の主張を支持する裁定を下している。

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