Washington Files

2019年12月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

脱税または過少申告は国民の琴線に直接触れる問題

 ただ今回最高裁が判断を求められる2案件の場合、党派を超え全員一致の結論を導き出せる可能性はほぼ皆無というのが、多くの専門家筋の見方だ。

 とくに大統領の税務内容について提出を命じる裁定を下した場合、大統領の地位のみならず、大統領をかばい続けてきた与党共和党そのものが危機的状況に追い込まれかねないきわめて重大な要素をはらんでいる。

 ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなど有力各紙のこれまでの調査報道によると、トランプ氏は大統領就任前までの不動産売買などを通じ、複数年にわたり税申告の際の過少申告、脱税が疑われるケースが浮上しており、もし、税務内容が公表された場合、窮地に立たされることになる。また、米議会のみならず、マスコミも繰り返し、過去の歴代大統領同様の税務内容公表を求めてきたにもかかわらず、トランプ氏がこれを頑迷拒否してきたこと自体、疑惑を一層深める結果にもなっている。

 この問題に関連してキニピアック大学が今年2月実施した有権者世論調査結果によると、「トランプ大統領は納税申告書類を公表すべき」と回答した人は67%だったのに対し、「公表すべきでない」と答えた人はわずか24%にとどまった。

 大統領は憲法規定により、いかなる容疑であれ在任中に罪に問われることはないものの、脱税または過少申告は国民の琴線に直接触れる問題であり、疑いが立証された場合、その行為自体が弾劾の対象となりうる。また、再選めざす来年11月選挙に向け、納税者として国民の範となるべき最高指導者が、税問題で不正行為を繰り返していたことが明るみになったとすれば、それだけで受けるダーメージは計り知れない。

 では、立法府と行政府が正面から対立した場合、通常どちらの主張が重視されるのか。

 この点、「国のかたち」を定めた合衆国憲法下における“主従関係”という観点だけで見るならば、連邦議会が優位だ。

 なぜなら、合衆国憲法ではまず、第1条第1節で「憲法によって与えられる立法権は、すべて合衆国連邦議会に賦与される」と明記され、第2節以下で上下両院の選出方法、任期、職務・権限などが詳細にわたり規定されている。

 これに対しホワイトハウスを頂点とする執行権および大統領に関する規定は、次の第2条で言及されており、予算執行、条約締結などにあたっては連邦議会の承諾を必要とすることや、弾劾を通じ「大統領罷免権」が連邦議会にあることなども付記されているからだ。

 さらに大統領は形式上とはいえ、連邦議会における「大統領選出人」による投票をへて選出され、選出後の「大統領就任宣誓式」もホワイトハウスではなく、連邦議会議事堂で大々的に挙行される。

 しかし、現実の政治の世界では、外国との戦争権限、法案「拒否権」行使に象徴される大統領の権限は絶大であり、議会もそのことを既定事実として受け止めている。

 従って最高裁としても、大統領の主張や意向に十分配慮せざるを得ないのが現実であり、今回の2つの重要案件についても、同じ党派に属する判事が多数を占める現状では、共和党政権が有利な状況にあることには変わりない。

 ただ、その中で最も注目されるのが、ジョン・ロバーツ最高裁長官の決断だ。

 同長官は、同じ5人の共和党系判事の中ではただ一人「穏健保守派」として知られており、去る6月、不法移民取り締まりの一環として次回国勢調査(2020年)に市民権有無の追加質問を義務付けた政府方針をめぐる最高裁審理では、民主党系判事4人と同調した結果、ホワイトハウス側が敗訴に終わった。今回も最高裁の「独立性」重視の立場から、同長官が超党派的判断を下す可能性も否定できない。

 有力誌「アトランティック」最新号は「トランプ氏があと1年のみの任期で終わるか、それとも(再選をへて)あと5年ホワイトハウスの住人となるかは、ロバーツ長官が今回の案件審決を通じ大統領権限への歯止めをかけるかどうかにかかっている」と論評している。

  
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