2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月17日

 ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは、11月26日付の同紙にて、米中関係が単なる貿易戦争の域を越えて、全面対決の様相を帯びてきていると指摘した。この指摘は、フリードマンに始まったことではない。すでに、米中関係は新しい冷戦であるとも言われている。フリードマンの論説の注目点は、米中関係が過去40年の統合から分離状態になる結果、これまでのような世界経済が破たんするのみならず、米国が打撃を受けるという点である。 

(eranyardeni/@Rafael Hernandez/dani3315/iStock / Getty Images Plus)

 米中関係が「デジタルのベルリンの壁」と言われるような状況になる理由は、中国の米国に対する挑戦である。新興国の既存の覇権国に対する挑戦は、ギリシャの歴史家トゥキディデスが「戦史」で描いたスパルタに対するアテネの挑戦以来いくつも見られ、その多くは戦争に至っている。 

 米国に対する中国の挑戦をもっとも端的に象徴したのが、「中国製造2025」計画だったのではないか。同計画は2049年の中華人民共和国建国100周年までに、中国が「世界の製造国」としての地位を築くことを目標に掲げたものであり、先端技術を中心に米国に追いつき追い越そうとの意気込みを示したものである。ハイテクで米国に追いつき追い越すということは、軍事技術でも米国に追いつき追い越すということも意味する。米国はこれを自国に向けられた全面的挑戦と受け止め、中国が不法な手段で米国の技術を盗み続けていたことと合わせ怒りを露わにした。米国政府のみならず議会が、与党共和党のみならず民主党も、中国批判を強めた。米国は、一時中国が経済発展をするにつれ「責任ある当事者」になることを期待したが、その期待は裏切られた。中国が米国の虎の尾を踏んだというのは言い過ぎかもしれないが、それに近い状態を招いたのである。 

 フリードマンは、米国はこれまで中国も包摂する最も開かれた社会で、世界中から人材を集め、技術覇権国としての地位を築いてきたが、「デジタルのベルリンの壁」が築かれる結果、米国の技術優位を維持するために必要な世界の投資資金、顧客や科学者、エンジニアから米国を切り離してしまうのではないかと憂慮している。そして、米国と中国は立ち止まって、「デジタルのベルリンの壁」が築かれる結果どうなるかを自問すべきであると言っている。 

 しかし、自問しても「デジタルのベルリンの壁」を築く勢いは止められないだろう。5Gに関連したファーウェイをめぐる米中対立等を見ても明らかだろう。これは実はフリードマンも分かっていて、米中関係は崩壊に向かっているという悲観的な結論を出している。 

 フリードマンは米中の対立は地殻変動ともいうべき変化だと言っているが、その通りだろう。それは世界経済のルールを変えるものであり、世界経済に深刻な影響を与えかねない。日本も今後の米中対立の行方を注意深くフォローし、適切な対策を講じていく必要がある。技術の競争が軍事にも結び付くという意味では、日本は米国と同盟を組み、民主主義の発展と平和の維持に協力して行かなければならない。世界秩序の地殻変動においても、充分、一定に役割を担うことができるだろう。

  
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