「最初、ロビーのドアを開けたとき、中で銃を持った男が警備員とやりとりしているから何かの番組の演出かと思ったんだ。そしたら男が僕に向かって銃口を向け、『地面に伏せろ、地面に伏せろ』と言ってきた。そうして初めて事態を把握できて、僕は手を挙げたまま床にうつぶせになったんだ」
男は事あるごとに、ディスカバリー・チャンネルに対する不満をぶちまけた。そうして、意味不明なことも叫んでいた。
「世界は狭すぎる。動物たちは人間より優れているんだ」
人質の1人は男と交わしたこんなやりとりも明かした。男は苛立ちをまじえ、人質にこう聞いた。
「お前は子供がいるのか」
「はい、2人います」
「誰が子供を持てと命令した?」
「誰もいません」
「なぜ2人なんだ。1人で十分じゃないのか?お前の汚らしい子供の何がいいんだ?」
「子供たちはとても親切なんです」
「お前は子供たちを不妊にするんだろ?」
「あなたの考えを子供たちに伝えます」
「なぜ、お前が子供たちを不妊させないんだ?」
「それは彼らの決定だからです」
「爆弾魔」の通報はすぐに地元警察に届けられた。付近一帯は立ち入り禁止となり、FBIの特殊機動部隊(SWAT)や爆弾処理班がディスカバリー・チャンネルの社屋を取り囲んだ。
「地球は人間を必要としていない」
事件の様子は全米中に同時中継で伝えられた。まもなく立てこもり犯の身元が割れた。男は韓国系米国人のジェームス・ジェイ・リー。43歳。2年前からワシントン近郊に引っ越してきて、ディスカバリー・チャンネルの周りで抗議デモを行っている人物だった。アジア系の顔立ちは放送局スタッフになじみがあり、リーは「ディスカバリー・チャンネルは緑の地球を救う番組を作っていない」と言って、局に抗議を申し入れていた。