AIは様々な職業に置き換わるものとして注目されている。特に単純業務は近い将来8割の仕事がAIによってこなされるようになる、という見通しもある。例えば米国の銀行では大型スクリーンを備えたキオスクだけが並んでおり、窓口業務がほぼなくなっているところもある。出入金、振込などの単純業務はキオスクで済ませ、融資などの相談のみ窓口で受け付ける、というシステムだ。
もちろん高齢者など、預金も窓口を通すことを好む顧客も存在するが、銀行によっては預金額に応じて1カ月に窓口を利用する回数が定められているところもある。そう遠くない将来、窓口はすべて有料化になるかもしれない。
単純業務はこの他ファストフードの注文、ときにはレストランやバーの調理、デリバリーでもAI化が目立つようになった。一般企業でもAIによるチャットボットでカスタマーサービスを行うところが増えてきた。多くの場合、8割の顧客相談はチャットボットで解決できる、という。
しかし、AIが活躍できるのは単純業務にとどまらない。米国ではロサンゼルス・タイムズやワシントン・ポストといった大新聞でもAIによる記事作成が進んでいる。現時点では株価の動き、地域スポーツの結果、などの比較的パターン化された記事が多いが、AIの文章作成能力は日々進化しており、より内容が複雑な原稿もAIが作成する日が来るかもしれない。
そして現在注目されているのが「高度な数学能力と分析力が必要とされる」と言われる金融業務でのAI活用だ。米国では連邦議会の下院調査委員会により「AIの資本市場におけるインパクト」が協議されるほど、この問題への関心が高い。この委員会の公聴に応じたコーネル大学工学部教授、マルコス・ロペス・デ・プラド氏は、「金融業界で最も給与が高い部類の職業もAIに取って代わられる危機にある」と証言した。
ウォールストリートに代表される金融業界で最高の給与を支払われているのは、投資アナリストだ。顧客や企業のファンドを預かり、それを投資して資金を増やすのが役割だが、成功するには高度な数学的知識、市場の読み、正確な売買のタイミングなどが必要とされる。このような専門職中の専門職ともいえる業務がなぜAIに置換されるのか。
教授によると、金融アナリストはクラウドソーシングで多数のデータ・サイエンティストを使うことで、たとえ金融業務の経験がなくともかなり正確な分析を行うことができるため、個人の能力よりもデータとクラウドによる大容量サービスに太刀打ちできなくなる、という。同様のことが保険業界にも当てはまり、保険料金などを決定する保険危機算定率の作成なども専門知識がなくてもデータとそれを処理するデータ・サイエンティストさえいれば十分、という時代がやがて訪れる、というのだ。
教授は委員会での証言で「614万人とも言われる金融、保険業界の雇用者は、将来金融ML(マシン・ラーニング)により、職を失う危機にある。AIに置換される、というよりも彼らがアルゴリズムに基づいた教育を受けていないためだ」と語った。つまり1人の金融スペシャリストよりも、データとそれを分析するチームの方が有利になる、という考え方だ。