今年のオートモビリティLA(旧ロサンゼルスオートショー)で集まった人々を驚かせたのが、昨年ここで華々しいデビューを飾った新興EVメーカー、バイトン社の創業者でありCEOだったカールステン・ブライトフェルド氏が、今年はこちらも中国系のファラディ・フューチャー(FF)のCEOとして登場した、ということだ。
ブライトフェルド氏はBMWで長くキャリアを積み、2017年、5万ドル台でテスラに負けないクオリティのEVを販売する、とバイトンを設立。同時に中国南京に工場を建設し、来年の発売を目標としていた。
ところが急転直下、こちらも中国と深い関わりのある米EVメーカー、FFにCEOとして迎え入れられた、という。一体何が起きたのか。
同氏によると、バイトンを去る決意をしたのは、中国政府による過度の干渉に不安を覚えたためだという。中国内でのプレゼンスを高めるために第一汽車(FAW)との提携を行ったが、その結果FAWが同社の株式の15%を所有、いずれ飲み込まれる、という危機感を覚えるに至った。ちなみにバイトン社では現在は別のCEOの元、EV開発は続行されている。
ただし移籍したFFも中国がらみで様々な問題が指摘される企業だ。同社は2014年に設立され、いきなり10億ドルの工場建設計画などを発表して大きな話題になった。中国のLe Eco社が実質上のオーナーと言われていたが、同社の経営状況が急激に悪化したことから米国でのFFの動きも雲行きが怪しくなり、工場建設の延期、FF91と名付けられた高級EVの発売も延期、となり、創業メンバーが全員会社を去る、という事態に陥った。
ここ数年、オートモビリティLAでは毎年のように新しいEV企業がデビューしているが、未だ成功を収めた、というレベルに達した企業は出ていない。唯一昨年デビューしたEVのSUV、ピックアップトラックに特化したメーカーであるリビアン社はGMの廃工場を買い取り量産体制に入った、とされているが、実際の販売はまだ始まっていない。
FFにしろバイトンにしろ、中国資本と中国市場を前提にして成り立つ企業であり、今や世界最大の市場となった中国の存在抜きに新興メーカーがテスラのようなある程度の成功にたどり着くのは無理なのかもしれない。そのテスラも中国に工場建設と、やはり次に狙う市場は確実に中国だ。
ともあれ、FFのCEOとなったブライトフェルド氏は、なぜFFを選んだのか、という質問に対し「テクノロジー、EV業界の中で最も進化したパワートレイン、これまでに築き上げたデータ、投資された額など、全てを持つ企業であるため」と答えた。同氏によるとFFに欠けているのは「エグゼキューション(execution)=実行力」、つまり製品としての完成だけで、長く自動車業界にいた自分にはその能力があり、FFには大きな可能性がある、という。