これぞ究極のカスタマーサービスなのか、それともディーラーとしては大きな裏切りなのか。カナダのケベック州にある日産インフィニティのディーラーで、ちょっと考えられない顧客へのデリバリーが行われた。
インフィニティ・ディーラーが顧客に販売した車、それはテスラモデル3。この顧客は長年インフィニティブランドの車を買い続けたロイヤリティの高い顧客だったが、 EVに興味があり購入したい、という相談を受けたという。しかしインフィニティブランドにはEVは今のところ存在しない。そこで考えた末に、テスラモデル3をインフィニティを通して販売したのだという。
インフィニティというのは日産の上級ブランド、トヨタのレクサス、ホンダのアキュラなどと同じで、ライバルとなるのはBMWやメルセデス、アウディなどになる。日産にはリーフというEVが存在するものの、インフィニティブランドとしてはEVのラインナップがない。この顧客はインフィニティブランドにこだわっていたため、提供できる車がなかったのだ。
これは日本車がラグジュアリーセグメントでのEV導入に遅れを取っていることを意味する。ライバルとなる欧米メーカーはすでにジャガーも含め、EVオプションを提供しているためだ。インフィニティでは2021年にQXの名前でEVのSUVを発表する予定なのだが、この顧客はそれまで待てなかった、ということらしい。
インフィニティのディーラーでテスラモデル3を受け取り喜ぶ市長
実はこの顧客、ケベック近郊のシャーブルックという市の市長なのである。そのため、このディーラーでは「インフィニティのディーラーでテスラモデル3を受け取り喜ぶ市長」の写真をフェイスブックに投稿、大きな話題となった。一応ここでは「インフィニティのEVが登場する21年までのつなぎとして、我々と市長が最も満足できる方法を見つけ出した」としており、QXが発売になれば市長が乗り換える可能性を示している。ただしEVとしては実績があり、自動運転機能も充実させているテスラを市長が気に入って手放さない可能性もある。
実はカナダではこうした例は割によく見られるのだという。話題のEVに乗り換えたい顧客に対し、ディーラーが独自にテスラ車を購入してそれを顧客に販売する、という方法だ。別にテスラが欲しければオンラインで購入できるのだが、テスラショップが近くにない、やはりディーラーで買ってアフターケアをしてもらうほうが安心、など様々な理由であえてディーラーを通してテスラ車を買う顧客というのは存在するらしい。
しかし今回のことが大きく取り上げられたのは、それがインフィニティという価格帯としてはテスラとライバル関係になるラグジュアリーメーカーが、「自分たちのブランドにはEVがない」ことを認め、しかもそのデリバリーの模様をフェイスブックで大々的に発表した、ということだろう。
ただし疑問は残る。なぜこのディーラーは同系列である日産リーフを勧めなかったのか? 日産ではラグジュアリーブランドを求める顧客を満足させられなかったからなのか、それとも顧客が品質、評判などからテスラを好んだためなのか。