2024年12月22日(日)

赤坂英一の野球丸

2019年12月17日

 毎年、一般庶民には目の眩むような金額が報じられるプロ野球選手の契約更改で、球界の未来に大きな影響を与えそうな契約が交わされた。今月6日に明らかになった今季のMVP、巨人・坂本勇人の5年契約である。

 坂本は昨年オフ、巨人と2023年までの5年契約を結んでいたことを公表。19、20、21年の3年間は、成績にかかわらず年俸5億円の固定制。残る2年の22、23年は成績に応じて金額が上下する変動制だ。3年間の最低保証額が15億円で、残る2年で20~30億円を上回る可能性もある。

(Tatomm/getyyimages)

 契約満了となる23年、坂本は35歳。年齢的には、ショートとして盛りを過ぎている。つまり、この5年契約は巨人と〝生涯契約〟を交わしたに等しい。と同時に、アメリカのメジャーリーグへの挑戦を〝断念〟したことにもなる。

 坂本は06年、高校生ドラフト1巡目で光星学院から巨人に入団。2年目の08年からショートのレギュラーに定着し、今年までに7度の優勝、2度の日本一に貢献した。

 今年は打率3割1分2厘、40本塁打、94打点、5盗塁で初のMVPも獲得。プロ13年間の通算成績は打率2割9分3厘、223本塁打、800打点、152盗塁。通算安打数も1884に達しており、来季は榎本喜八の31歳7カ月を抜く史上最年少での2000安打到達も視野に入っている。すでに巨人史上最強、もっと言うなら球史でも一、二を争う遊撃手と言っても過言ではない。

 日本のプロ野球でここまで上り詰めたら、来年からメジャーリーグに行ってもおかしくはない。いや、今時の選手ならメジャー移籍を考えないほうがむしろ不思議だ。

 現に、今年のオフも、DeNA・筒香嘉智、広島・菊池涼介、西武・秋山翔吾、巨人・山口俊がメジャー挑戦を表明。ヤクルトの正二塁手、トリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁以上)の実績を誇る山田哲人も近い将来、メジャーでプレーしたい意向を持っているという。

 坂本はすでに16年に海外FA(フリーエージェント)の権利を取得しており、メジャー行きには何の支障もない。これほどの選手がFA権行使を封印し、巨人で現役生活をまっとうしようと考えたのはなぜか。契約更改後の会見で、坂本はこうコメントしている。

 「メジャーに対しての憧れというのは持ってますけど、自信もないし、たぶん無理やなと思うので、ぼくは日本で頑張ります。ジャイアンツで(現役生活)最後までプレーしたいという気持ち。来年はまず、記録(2000安打最年少記録更新)を目指してやっていきたいと思います」

 坂本はメジャーで自分の力を試すよりも、3年で最低15億円、残る2年を合わせると20~30億円とも見込まれる収入、そしてショートとして日本球界で不動の地位を築くことを選択したわけだ。この決断を、夢を捨ててしまったのはもったいないと見るか、それとも、リスクを考慮した賢明で現実的な判断をくだしたと見るべきか。

 坂本がメジャー挑戦を断念した背景には、日本人の場合、投手や外野手に比べ、内野手の成功例が極めて少ないこともあるだろう。実際、現在メジャーでプレーしている日本人選手で内野手はゼロ。過去に遡っても、僅か8人しかいない。

 以下、古い順に8選手のメジャーでの実働年数、所属球団、通算成績を挙げてみよう。

○松井稼頭央 7年(04~10年) メッツ、ロッキーズ、アストロズ、630試合 打率2割6分7厘32本塁打 211打点 102盗塁

○中村紀洋 1年(05年) ドジャース 17試合 打率1割2分8厘 0本塁打 3打点

○井口資仁 4年(05~08年) ホワイトソックス、フィリーズ、パドレス 493試合 打率2割6分8厘 44本塁打 205打点 48盗塁

○岩村明憲 4年(07~10年) デビルレイズ(現レイズ)、パイレーツ、アスレチックス 408試合 打率2割6分7厘 16本塁打 117打点 32盗塁

○西岡剛 2年(11~12年) ツインズ 71試合 打率2割2分6厘 0本塁打 20打点 2盗塁

○川崎宗則 5年(12~16年) マリナーズ、ブルージェイズ、カブス 276試合 打率2割3分7厘 1本塁打 51打点 12盗塁

○中島宏之 2年(13~14年) アスレチックス傘下3A、2A メジャー出場なし

○田中賢介 2年(13~14年) ジャイアンツ、レンジャーズ 15試合 打率2割6分7厘 0本塁打 2打点

 このうち、曲がりなりにも結果を出したと言えるのは松井、井口、岩村の3人。松井はロッキーズ時代の07年、セカンドの定位置をつかんでチームのリーグ初優勝、初のワールドシリーズに貢献した。井口はホワイトソックス移籍1年目の05年からセカンドのレギュラーとして活躍し、チームもリーグ優勝とワールドシリーズ制覇を成し遂げている。

 岩村はデビルレイズ移籍2年目の07年に154試合に出場し、プレーだけでなくナインを引っ張る兄貴分としての存在感をアピール。若い選手に助言を与え、監督に緊急ミーティングを提唱するなど、日本人にしては珍しくチームリーダーとしての役割も果たした。

 この07年、デビルレイズは初めてワールドシリーズに進出。岩村独特のヘアスタイル、ソフトモヒカンを大勢の野手が真似したことも日米双方のマスコミで話題になった。

 しかし、その岩村も、松井や井口も、レギュラーに定着したと言えるのはせいぜい2~3シーズン程度。故障したり、打撃不振になったりすると定位置から外され、首脳陣から見限られるのも早かった。

 岩村以後の西岡、川崎、中島、田中に関しては、改めて結果を云々するまでもあるまい。選手寿命に関しては、内野手は明らかに投手や外野手より短命と言える。


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