12月12日に行われた英国の総選挙ではボリス・ジョンソン首相率いる与党保守党が650議席中365議席を獲得、野党陣営を80議席も凌駕する、地滑り的勝利を収めた。保守党としては1987年のサッチャー政権以来の大勝となった。
ジョンソン首相は、(1)1月末にEUを離脱すること、(2)来年末までの移行期間を延長しないことを公約した。前者については、昨年11月にEUとの間でまとまった離脱合意案は、保守党が絶対多数を占める英議会において、問題なく可決されるであろう。他方、後者については、将来のEUとの関係を律する取決めを交渉し発効するには、来年末が期限というのは短すぎ、したがって、結果的に合意のない(no-deal)Brexitになってしまうのではないかという懸念が指摘されている。なお、ジョンソンが移行期間の延長を求めないのは、英国をEUの「属国」の立場に長く置きたくないからである(移行期間中、英国はEUにおける決定権はない一方、従来のEUとの関係に縛られる)。
しかし、英国の加盟国としてのEUとの関係は、一秒たりとも間隙を置くことなく切れ目のない状態で新たな将来の関係に引き継がれねばならないとの立場を取る必要はない。移行期間終了後に順次交渉を纏めることで支障のない分野は種々ある筈である。安全保障協力、司法・治安協力、学生交流が一秒も待てない筈はない。移民も待てる。サービス貿易ですら、企業による自衛策を前提とすれば待てるかも知れない。
したがって、ジョンソンは必要最小限の合意を得て移行期間切れに備えることを目指すものと予想される。例えば、モノの貿易に焦点を絞った協定であれば、議会の承認を必要とせず発効できる可能性がある。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は12月13日の記者会見で、公正性が重要であると英国を牽制しつつ、「交渉事項には優先順位付けが必要になる」として、(おそらく暫定的な)必要最小限のFTAを示唆している。もちろん、それでも、混乱は生ずる。ジョンソンは「野心的なFTA」を目指すと言っているが、それは結局は通例のFTAであるから、いずれにせよ物流には障害が生ずる。サプライチェーンは寸断される危険がある。企業は自衛策を講ずる他ない。
経済界からは異論が出るであろうし、混乱を不安視する声もあって議論は喧しいことになるかも知れない。新たに取り込んだ製造業分野の勤労者層に配慮する必要もあるかも知れない。しかし、保守党から反旗を翻す可能性のある議員を追放して忠実な議員で固め、その上これだけの多数を有するのであるから、ジョンソンは押し切ることになるであろう。
英国に滞在するEU市民の権利、清算金、アイルランド国境という当面の問題については、離脱協定によって処理されることとなる。したがって、EUとしては、非加盟国としての英国に淡々と対応するだけであろう。
確かに混乱は不可避である。しかし、「2020年、Brexitは片付くどころか、期限に間に合わずno-dealの崖っぷちに立つという2019年の経験を繰り返す」(‘”Get Brexit done”? It’s not as simple as Boris Johnson claims’, Economist, December 5 ,2019)、ということにはならないように思われる。
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